蘇った黒柿の姿見
最近はほとんど見かけない素材です。
*黒柿と云うのは間違いのようです。

   ja1cvf   0703

母の嫁入り道具・昔々の姿見です。
昭和初頭の製品です。子供の頃の悪戯でずいぶん痛んでいます。
悪戯して壊したのは私だけではないのですが修復してみました。

素材について・・・間違ってるようです。
黒柿と思っていたのですが良く考えて見れば黒柿ではありません。黒柿の杢目とは明らかに違います。桑ではないか?という話しもありますがよく解りません。どなたかご存じの方教えて下さい。これは茶箪笥、針箱などとセットになっていました。

最近では珍しい黒柿の杢目がすばらしい。

母の形見と云えばちょっと大げさですが使い始めてから80年は過ぎようという代物でしばらく置き去りになっていたものです。

私が子供の頃から部屋の隅に有ったので印象深いのですが悪戯したり、引っ越しをしたりであちこち痛んでいましたが命と云える鏡面は曇り一つ無い状態で保管されていました。鏡台部分は最近では珍しい桐に黒柿の突き板です。そこで再利用を目標に修復を試みることにしました。

ばらばらにして運んだために修復前の写真がありません。と云うわけで写真のほとんど修復後の物となっています。
鏡の覆いは写真では綺麗に見えますが色焼けもひどく今のも破けそうです。これは母の着物で作った母の作品です。この覆いも新たに使わなくなった着物を壊し家内が新しい物を制作中です。
お気づきかと思いますが鏡の幅は反物(着物の生地)の幅と同じなのです。

今回はこれを実用的に使うことが目的です。作業の終盤に引き出し大きさが今風ではなくそのままではとても使いにくいことが解り禁じ手ではありますがちょっと改造してしまいました。

実測のサイズは
全体外観 h129Xw50.5Xd27.5 
鏡部分 h94Xw33.5  台部分 h24.5Xw50.5Xd27.5

丁寧に使っていたとは云え結構傷もあります。 飾りの額縁も外れていたり、引き出し自体の接着がゆるんでいるところもあります。 金具を外してヒキダシの補修をすることにします。

クランプなど総出で接着部分の補修です。

額縁も新たに付けました。少々厚めの板材(2X5mm)を張り枠に合わせて削ります。

このヒキダシの引手は壊れていました。(作業の都合で横置きになっています)

最初こんな金具を作って誤魔化そうと思ったのですが、とたんにクレームです。やはり手抜きはすぐバレるようです。 ちょっと手を掛け銅板を切って作り直しました。

座金はオリジナルです。取り付け金具は真鍮板を曲げています。本体は3mmの銅板です。
オリジナルは青銅のように見えます。 このまま放置すれば次第に変色しなじんでくると思いますが、今回は古美液と呼ばれる硫化剤で処理しました。 (この写真は未処理です)

外観はクリアで塗装されていますがこれも傷だらけです。ヒキダシの内部は漆?が浮いて白くなっています。
外部はクリアニス+ワックス掛け、内部はカシューを塗ってみました。
カシューは今まで使ったことがありません。 おそるおそる塗ってみましたが刷毛目など気にすることなく綺麗に仕上がります。ただし少々お値段が張ります。

これで出来上がりと思ったのですがここでクレームが持ち上がりました。 評判の悪かった引手は直したのですが化粧品の瓶が入らないというのです。
引手を取り替えた一番深いヒキダシに入れたくなる丈長の瓶が1センチほどはみ出すのです。 時代の変遷は瓶の大きさまで変えたのでしょう。
究極の対策として上段の薄いヒキダシと重ねて一体化をすることにしました。

二つのヒキダシの間に仕切り板分の枠を嵌めてを積み重ねて接着します。

内部も塗り直し引手もリングから銅板切出しの新型に替えました。
これで長めの瓶も入れることが出来ます。
外観は今まで通り二つのヒキダシですが出してみれば一つです。

覆いも出来ました。これで母の鏡台も蘇りまたしばらく役に立ってくれると思います。

【着物文化のすばらしさ】
この鏡台は“姿見“と呼ばれ着物文化とは切っても切れない必需品だったようです。

最近町で着物姿を見かけることが少なくなりました。 呉服屋さんも少なくなりさらに呉服屋の番頭さんも洋服姿で店に出ています。
着物が活動的でないことが着物離れの最大の理由でしょう。
世の中が忙しくなりゆったり動くことが基本の着物は時代に取り残されて若い人も年配の人も私自身も久しく着たことがありません。
着物の良さはいろいろ云われても忙しく変化する時代が変わらない限り着物文化が再び栄えることは無いと思います。

着物文化の頂点は女性用の着物です。
これを作る生地はどれも同じサイズで一反と呼ばれます。 生地幅は一尺(約38cm)長さは約三丈(30尺・約11.4m)です。おやっ!と思われる方も居られると思います。 大工さんの使う一尺は約30cmです。これは曲尺(カネ尺)、呉服屋さんは鯨尺(クジラ尺)なのです。 他に寺尺なんて云うのも有るようですが詳細は知りません。 こんな厄介な尺貫法ですから国際化の名の下にあっさり捨ててしまったのですが寸法だけで無い大きな物(知的文化)も捨ててしまったのです。
もちろん寸法のことは呉服屋さんも大工さんもちゃんとメートル法で対応しています。
男性用の着物や浴衣は改良されたりして基本から外れてきましたが女性用の着物は基本に忠実に作られています。 一反の生地に1センチの無駄もありません。全部無駄なく使います。
しかし不思議なこともあります。一反と云われる生地の長さがキッチリ三丈ではないことです。 木綿や安物だと短かったりするのです。悪徳商人が誤魔化したりするのでしょうか?
それでも仕立屋さん、縫子さんの手加減でちゃんと着られる物ができあがります。 いい加減さというか順応性が良いというのか難しいところですが不思議な物です。
そんなことから着物を美しく着るためには着る人の技量も要求され“着付けやさん”などと云われる商売も成り立つのです。

大切な文化遺産
解りにくい尺貫法ですが今回は着物の生地についてだけ考えてみました。
生地は三丈、一反が標準です。 この一反の生地から着物はもちろん布団、風呂敷などが生地を余すことなく作れます。 これらは切り落としたり捨てたり足したりせず一反すべてを使います。
と云うことは、着物を布団に直したり、風呂敷に、いやまた風呂敷を着物にすることも可能なのです。
人はみな背格好が違いますけど大きい人でも小さい人でも基本的には同じ着物を着ることが出来ます。 着る人が着物に体を合わせてきているのです。 それでいて体にぴったり合って優雅な姿を醸し出すことが出来る不思議な物なのです。
ほとんど着物を着たことがない人でも旅館の浴衣が何となく誰でも着られる不思議な物であることにそろそろお気づきでしょう。
着物文化は日本の大切な文化遺産なのです。

☆DIY作品集【Quick Menu】はこちら!

《ホームページ・表紙へ戻る》