真空管ラジオの修復(TELEVIAN M-40)
 久々にラジオのお遊びです。

ja1cvf  0903


このラジオは1935年頃の製品と思われます。
きな臭い戦争間近の匂いを感じながらも
まだまだ平和な時代だったようです。
この製品はどちらかと云うと高級品ではなく普及品に属するモノと思います。
物資の不足もそれほどではなく
適材適所しっかりした造りです。

TELEVIAN(山中電機) M-45C と思われますが銘板はありません。全く別物かも知れません。
*形式は【エリミネーターセット M-40】と判明しました。
その素性が判ったのは修復を完了してから後のことです。
説明にちぐはぐな部分がありますので(*印)を付けて注釈を入れています。

その昔、私の家ではタンスの上にラジオが置いてありました。
こんな縦型のラジオでした。
その後、国民型と呼ばれるような横型のラジオに変わりそれは戦後しばらく使っていました。
標準的な5球スーパが我が家に来たのはしばらく後のことです。

時は移り今、ラジオはFMが受信でき、オーディオセットとしてくつろぎの時を癒し、またポケットに入れて聴く、使い方も大きく変わりました。

古いラジオやその部品も整理し処分しラジオ遊びから卒業しようとしていた時、このラジオを頂きました。
無惨な姿でしたが外観は充分修復可能な状態で“ラジオ遊び”の虫が動き始めました。どこまで出来るか、修復に挑戦しました。

一般的な使用状況では長いアンテナが必要です。私の家は放送局が近いのでこのアンテナで受信できます。

入手した時はケースの一部は破損し、内部は部品の欠落、配線の切断、複数回の改造、部品の交換がなされたように見受けられました。
しかし幸いなことに、壊れているとは云え、電源トランスは健在で大きな機構部品もオリジナルのモノが残っていました。 「これなら直せる」と修復に取りかかりました。

修復は、新品同様にしてしまう方法もありますが、私には無理な部分がありますので、時代色を残し、安全に使える状態まで戻すコトを目標としました。
とくに、部品の交換にはこのことが重要な要素になります。

ケースの台座部分が無くなっています。裏ブタは蓋が閉まらない程に激しく捻れています。
マグネティックスピーカはコイルが断線しています。

電源のフィルタチョークや段間のトランスは断線していました。ブロック型電解コンデンサは一部短絡しています。取付状態を見ると後から交換されたモノと思われます。

トランスの陰で見えなかった配線は度重なる改修でキチッと固定されて無く危険な状態です。ブロックコンデンサは配線で支えられてるだけです。

トランス結合なので部品は少ないのですが、内部はごちゃごちゃです。

ハンダ付けはイモハンダやフラックスによる腐食も見えます。

これは危ない!
フューズは5A程度と思われるあり合わせのフューズをホルダにからげて使用しています。これでは内部に異常があっても切れないでしょう。火災の危険があります。
このラジオには500mA位のフューズが適当と思われます。中古品で電流容量がよく判らない時は小さめにしましょう。

古い電器製品の修理をする場合、それが安全に使えることを確認することが重要です。
真空管ラジオなどは高い電圧(2〜300V)が掛かっている部分があります。ラジオの中は暖かいので裏ブタ無しで使うと、虫やネズミなどが入るコトがあります。それが原因で絶縁不良などを起こし火災が発生します。

絶縁試験器
古い電器製品による火災事故も考える必要があります。
このラジオのトランス類は100MΩ(500V)以上の絶縁抵抗があることを確認しています。

一般のテスターでは測定電圧が低いので絶縁試験は出来ません。測定電圧が重要です。

いよいよ分解します。部品のマークが判読できない場合もあります。分解する時マーカなど付けて後で困らないように! 回路の読み出しもしておきましょう。

部品は仕分けしてリード線には目印のマーカを付けておきます。
今回は古いイメージを残すようにしますので部品を外したら汚れや浮き上がった錆を落としあえて下地が見えるようにニスで仕上げました。トランスなどのフレームの錆びも同様処理しニスを塗ります。ニスは錆の進行防止です。

左が電源トランス。中央は電源のフィルタチョーク(10H,50mA)。
チョーク(新品交換)の外側の枠は古いチョークの名残です。ネームが入っていたので残してあります。

真空管を挿したところ。

シャーシの裏側から。真空管ソケットに真空管の名前が書いてあります。左側のケースはコイルのシールドです。現状では付いていなかったのですが痕跡があり、当時のラジオを参考に復元してみました。
TELEVIANの製品で大口径のコイルが使用された例があります。その場合は真空管にシールドがなされていたと思われます。このラジオにはその痕跡はありません。

*不明だったコイルの「シールドは無かった」が正解です。オリジナルでは大口径コイルが付いて、真空管のシールドもされてなかったコトを写真で確認しました。痕跡は大口径コイルの痕でした。これに付いていたコイルは既に交換されたモノです。(写真掲出準備中)

真空管は1.5V,2.5V,5V,とヒータ電圧がマチマチなので「挿し違えるとヒータが切れます」と注意書きが真空管に貼ってあります。

マグネティックスピーカの配線は今にも切れそうです。コイルは既に断線してます。
配線を外してレバー類のハンダを綺麗に取ります。

新しいコイルを用意しました。右側は古いコイルです。交換したコイルのメカは違います。

マグネットにネジを挟んで開きます。スパナでネジが開くように廻してマグネットを押し広げます。昔は専用工具がありましたが現在ほとんど入手不可能です。

新しいコイルと交換して組み直せば完成です。
コイルは横からスライドさせはめ込みます。振動板ははがきなどを挟んで中央に固定しレバー類をハンダ付けすればできあがりです。

ケースは汚れを落とし板の剥がれ、割れを補修します。特にベニアの剥がれは古はがきなどで隙間にボンドを挿し圧着します。
ケースの台座は無くなっていました。資料が無くオリジナルの状態が解らなかったのですがそれらしく復元しました。
補修が済んだらニスを塗りワックスなどで磨き上げればできあがりです。
*オリジナル台座は両サイドの縦枠を下まで伸ばしたような形になっています。
3個のツマミのうち中央のツマミはオリジナルではありません。この写真は写っていません。トップの写真を参照下さい。

裏ブタは狂いが酷く蓋が出来ません。板を交換し布も張り替えました。張り布は黄色がオリジナルです。通気口は同じ模様に糸鋸で切り抜きます。
この様なラジオでは外観は特に重要です。

このラジオの構成
UY27A検波,UX26B増幅,UX26B増幅,UX12B整流の並四でUY27A以外はすべて直熱感ですす。出力管は使用せず電圧増幅管で済ませているところが特徴的です。これはコストダウンの為だと思います。UX26Bはヒータ電圧(1.5V)を低くしてハム音を押さえた普及型真空管です。しかし1.5Vのヒータ電圧が嫌われ(挿し違いによる断線が多発)あまり人気はなかったと聞いています。
トランス類は電源トランス以外は全滅でした。
バリコンは右に回すと容量が増えるようになっていて最近のモノとは逆です。

その他の部品は以外にもしっかりしたモノが使われて古さの割に不良部品が少ないように思います。
これより後の時代は戦時色が濃くなり物資の不足がひどくなって使用される部品も粗悪なモノに変わっていくのが判ります。
トランス結合をやめて段間をコンデンサで結合するようになります。
コンデンサ結合は今では当たり前ですが当時のコンデンサは不良率の高い部品でした。

*コイルは見るからに新しそうなものが使われていますがオリジナルは直径55mm程度の大型コイルが使用されていました。シールドケースも使用されていなかったことが確認されました。
ダイヤルと軸は直結のように見えますがフリクションの減速機能付きです。再生調整用のマメコン、電源SWなどもオリジナルのままです。

写真では分かり難いですがマメコンやSWにもTELEVIANの文字が刻まれています。
これだけオリジナル部品が残っているのは珍しいと思います。

シャシ内部です。
配線も少しは綺麗に見えるよう部品の取付にラグ板を使用しました。
1:3の段間トランス2個(右下)は後面のリブに付けられていたようですがトランスの大きさが違うため取付位置が合わずサブシャシを作って取り付けました。2個とも同じ規格ですが購入時期が違ったため引き出し線の色やラベルが違うので間違えないようにマークを付けました。このトランスは真空管ソケットの真上になりますので直付けの場合、配線がやりにくいコトもありこの様に変更しています。
コンデンサや抵抗は昔の型にこだわらず出来る限り交換します。特に不良率の高い電解コンデンサはすべて交換しました。中央のラグ板に取付そこから配線しています。
最近の部品が如何に小さいかおわかりになると思います。
部品交換の場合その耐圧には注意が必要です。最近の部品はほとんど50V耐圧です。

これはオリジナルTELEVIANマーク入りのコンデンサ(100p)ですが、右横に見える丸い小さな電解コンデンサは350V2μです。大きさの比較のため写真を入れました。

これですべて完成と思ったのですが、モータボーディングのような発振を起こしてしまいました。UX26B 2段の低周波増幅回路ですがヒータのバイアス回路が共通になっています。この部分が悪さしてるようにも思えますが回路の変更はしないことにします。
また真空管を1段目と2段目を入れ替えると発振が止ります。ただし猛烈なハムが入ります。
UX26Bの異常も考えられますがスペアは持ち合わせがありません。
この様な異常発信はアースの引き回しが悪いことも考えられますので少し頭を冷やしてから再挑戦してみようと思います。

これに関した記述をnet上に見つけました。
下段の「低周波回路の発振」を参照下さい。

UX26Bの予備がないので一本使わなければどうなるか試したところ放送局に近いせいもあり問題なく受信できます。
コンデンサに電線を折り曲げた足を付けジャンパチップを作りました。
これを真空管の代わりにさしてグリッドとプレートを繋ぐだけです。(UX26Bの2,3pinに挿す)

真空管を一本省略した“並三”です。
この状態でNHK第1と第2が小さなループアンテナで聞こえます。他の局を受信する時は10m位のロングワイヤアンテナが必要です。

完成した内部の様子。20cmのスピーカがケース一杯に付いています。

裏ブタはすべて作り替えました。虫やネズミが入り込む心配もなくなりこれで安心して使えます。

このラジオは多少ハム音が残っています。低周波増幅管が直熱管なので仕方がない部分もあります。
電源のフィルタコンデンサは2μと云う小さなモノを使っていますがこれを大きなモノにしてはいけません。
電源SWを入れた時コンデンサのチャージ電流でヒータが切れる危険があります。
お気を付け下さい。

このラジオのオリジナル回路は今のところ不明です。とりあえず原型に近い形で修復が出来ました。回路図はチョット昔風の書き方をしてみました。如何でしょうか。
将来において型番、オリジナル回路、等が判った場合にはさらに修復を試みることにします。
パイロットランプの回路を書き落としてしまいました。“Y”の回路から4.5Vのマメ球を使っています。

このラジオの型式と回路について

これについて正式な形式は現在確認できていません。確実なのはメーカが「TELEVIAN・山中電機」、使用真空管構成は「UY27A/UX26B/UX26B/UX12B」と云うことです。
また、電源トランスには「TELEVIAN M-40」と記載があります。これがラジオの型式である可能性はありますがこれも確認できません。またトランスに記載された消費電力は16Wとなっています。
*このトランスにある「TELEVIAN M-40」記述がこのラジオの形式であることを写真で確認できました。

唯一これと同じ真空管構成の【TELEVIAN Mー45C】の回路図をこのサイトから見つけることが出来ました。しかしこれの外観は不明です。
「ラジオ工房」<http://www31.ocn.ne.jp/~radiokobo/>
その中の「新ラジオ資料館」真空管ラジオ回路図集・目次  
主要回路図集1 、(9) <http://radiokobo.sakura.ne.jp/G/circuits/0/haisenzu-1.html>に
TELEVIAN M-45C と云うラジオが掲載されています。


回路図:ラジオ工房 主要ラジオ回路図集1より引用(引用快諾頂きありがとうございます)

この回路図は描画が昔の方法で変更などされてないモノと思われ大変参考になりました。現物から書き起こしたモノは改造されていることも多々あり原型とは異なるモノも多いので要注意です。
しかし、これを見ると検波回路においてMCが接地されていません。私のラジオではではMCの片側が構造上接地されます。コイルとMCを逆にしなければなりません。これはラジオが改造(マメコンを交換?)されたモノか回路図が別の機種である可能性を残します。なお現在使用されているマメコンはTELEVIANマークの入ったモノが使われていますのでオリジナルとと考えています。
これらのことからM-45Cと本器(後日M-40と確認)は真空管構成は同じでも回路は異なると思われます。
またUY27Aの負荷側を抵抗負荷としてCを介しステップアップトランスを使い低周波回路に接続していますがこのトランスの素性は全く不明です。
段間トランスの1次2次をシリーズに使うことにより解決は可能と思われますが今回は素直にトランス結合としてみました。

M-40についてオークションに《ジャンク!テレビアン『M-40』・3球受信機》、こんな出品が有ったのを発見しました。しかし既にその内容は削除されて確認できません。3球と有るので別物でしょうか。疑問が残ります。
*M-40 は並四(4球)であることを写真で確認しました。

低周波回路の発振

このラジオの低周波増幅回路は2段です。そして特徴的なのは増幅管UX26Bのバイアス回路が共通になってることです直熱管でヒータはトランスの同じ巻き線から取っています。バイアス用にセンタタップを出し1kΩの抵抗でバイアスを掛け10μFのコンデンサでバイパスしています。最近の傍熱管なら個別にバイアスを掛けることが出来ますが直熱管ではヒータ回路を別にしなければならず、このラジオではよく言えば巧妙に、言い換えれば手抜きをしていることになります。
10μFのコンデンサは1kHzでは15Ω程のリアクタンスですが周波数が低くなればバイパスとして効き目が無くなります。幸いトランス結合なので「いずれかのコイルの方向を切り替えることにより逆位相にすれば発信は押さえられる」と思い試してみました。
これは正解で発信はある程度治まったのですが完全ではありません。
そこで、10μのコンデンサを220μに交換(実際にはパラに繋いだ)のです。僅かに残っていたハム音は静かになり一見良さそうなのですが、ゲインが高すぎる感じ(発振気味)なのです。真空管を叩くとカンカン音がします。
真空管を入れ替えると発振の具合が大きく変化しますので真空管の不良?も考えられます。
再生を一番掛からない状態にしても音が大きく入力オーバの感じです。
ここでコンデンサを元に戻し発振に対するチェックは中断しました。真空管不良の疑いを調べるすべが無く解決したわけではありません。

後日、net上でこの様なサイトを発見しました。
ラジオ温故知新」このサイトは旧式ラジオに関する多くの情報が掲載されています。その中に「抵抗結合にできない並四」と云う記述を発見しました。これこそが共通バイアス回路の問題点を解説してるモノでした。

私のぼやき!
ボリュウムコントロールのない並四は低周波増幅のゲインが高すぎる?
並四ラジオは音量調節を検波回路の再生量で調整してるわけですが放送局の近くでは音量を絞りきれません。アンテナを短くすれば遠くの局が聞こえません。
実は私の住んでるところは500kWのNHK東京第2から10km位の所です。並四ラジオ(記事にある改造並三)でもtopの写真のような小さいアンテナ(アース不要)で受信できます。
ゲルマラジオでもスピーカを鳴らして聴くことができるんです。
しかし、チョット離れた(30~40km)のJOKRやJOQRはアンテナを付け替えなくてはなりません。
この様なところでは並四でもボリュウムコントロールが必要です。
AGC(AVC)の良く聴いたスーパラジオは素晴らしい!

《ジャンク!テレビアン『M-40』・3球受信機》 の謎
これは前述の、古いオークション出品タイトルですが、修復後に『M-40』は並四(4球)であることを写真で確認しています。私の『M-40』場合、オリジナル回路は不明ですが同じ真空管構成の『M-45C』に習い、それに近い修復をしました。
『M-40』・3球受信機は使用中の故障でAFTの断線などが起こり、戦時下での入手困難なAFTの使用を諦め、抵抗結合にしてみたモノの発振が止らず、遂に3球受信機に変身してしまったのではないでしょうか。
戦争激化で戦略物資と云われる鉄や銅が入手困難になったため苦肉の策の結果でしょう。
3球でも音量が多少小さくなりますが充分使用に耐えたのではないかと推測します。ヒータ回路の簡素化?がもたらした私の幻想です。
如何でしょう?チョット考えすぎでしょうか!久々に楽しいラジオ遊びができました。

このラジオの素性が判りました。

この広告が決め手です。
右下の写真「テレビアン M-四〇号」です。
この広告は『ラジオの日本・昭和10年9月号』に掲載されたモノです。
\25.00と云う価格高いのか安いのか。

netを検索してみると昭和10年は大恐慌時代をやっと乗り越え経済活動が活発になった時代のようです。そして戦争前夜でもあったのです。
物価についてはこんな記述がありました『たばこ(ゴールデンバット)7銭、新聞購読月90銭、はがき1銭5厘、もり、かけ10銭、白米(10k)2円50銭』
これについてはあまり深く追求しませんが、地デジテレビと同じくらいでしょうか。

この写真を見ますと私の修復に間違が有ることを確認できます。内部についても原型と同じ訳では有りませんのであえて再修復はいたしません。そのことをご理解の上修復記を閲覧いただければ幸いです。

 

この資料写真は 【ラジオ工房】 さんのご厚意によるモノです。
さらにnet上に掲載された写真が有りますが転載の許可が得られれば再度掲出したいと思います。

 

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