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深澤典子 おしっこの管を通すなんて初めてでした。 とても重症に見えたと思います。 点滴もたくさんぶら下がっていました。 のどがかれて、声も出ないんです。 自分でも不思議でした。 昨日まで、ピンピンしていて、病院へも自転車で、 スイスイ出かけたんですから・・・ おめでたのニュースをお土産に、実家に帰る予定でした。 その予定の日に、こんな状態になってしまいました。 そして、私が帰省する代わりに、母と、妹がベットのそばに 立っていました。 私の計画は、大幅に狂ってしまいました。 私は、昨年結婚しました。 結婚が遅く、夫は、とても子供好きなので、早く、子供が ほしいと思っていました。 独身の頃は、生理が少しでも遅れると、不安で仕方なかったのに 結婚してからは、毎月、赤い血を見るたびに、 まただめだったのかとがっかりします。 自分の環境ひとつで、同じ生理の捉え方も変わるものです。 そんな日々の中、やっと生理が止まりました。 うれしくて、期待でいっぱいでした。 今度は、ぜったい妊娠しているという、女の感がありました。 「検査では、陽性反応が出ていますが、いくら探しても、 子宮の中にいません。一週間後にまた来て下さい。」 先生はそう、おっしゃいました。 私は、子宮の中にいないのが、大変なことだという認識が、 その時、ありませんでした。 ただ、はっきりと、陽性反応が出て、明らかに妊娠している という、事実だけを受け止めていました。 「夫にも、早く知らせよう。どんなに喜ぶだろう。」 私は、ウキウキしながら帰りました。 今は、まだ小さすぎて、形が見えないだけで、1週間後には、 はっきりと見えてくる。そう、信じていたのです。 1週間後に、あと2日と迫った8月5日、私は、体から何かが 流れ出るのを感じました。出血です。 私は、自転車で、近くの病院へ向いました。 そして、そのまま入院でした。 手術は、お腹を切るかもしれないと言われましたが、 目を覚ましてみると、切った後はなかったので、 ほっとしました。 しかし、必要な手術は、まだ、これからだったのです。 翌朝、紹介状を手に、私は夫と共に大学病院にいました。 医師の説明を受けて、やはり、お腹を切る以外に、 方法がないことを知りました。 そして、その時はじめて、あんなにも待ち望んで、やっと できた、夫と私の大切な赤ちゃんが、もう、駄目になること。 それから、これまで、健康に生きてきた自分の体、 大事なこの体に、初めてメスが入ることを実感しました。 先生の前では、黙って話しを聞いていた私も、部屋を一歩 でたとたん、涙があふれて止まりませんでした。 緊急のため、手術はその日のうちに行なわれました。 次の日、個室に移され、自分の置かれている状況が、 しだいに、客観的に見られるようになりました。 おしっこの管を通していること。 点滴の針が刺さっていること。 体が痛くて、身動きできないこと。 声が出ないこと。 寝たきりで、することがないので、自分の右手の甲を、 あげてみました。 そして、思い出しました。 8年前に亡くなった父が、寝たきりだった頃、よく こうして、自分の手の甲を見つめていたこと。 それから、伸びきった足を曲げると、とても楽になるのですが、 父もよく、曲げようとしたこと。 でも、あの頃、半身不随の父の足が、曲がったまま、 固まらないように、重い砂袋で、押さえつけてしまった。 今振り返ると、父に悪いことをしたと本当に 申し訳なく思います。 父が亡くなった時、私は父の死を、とてもドライに 受けとめていたような気がします。 でも、今更ながら、自分が、こんな体験をしたことで、 あの頃の父の痛み、これからの人の痛みがわかるように なったのではないでしょうか。 今まで、何の不自由もなく、好きなことをやりたいように やってきて、幸せな結婚をしました。 そして、普通に妊娠して、普通の子供が産まれるのが、 当たり前の、簡単なことだと思っていました。 しかし、世界中の星の数ほどの人たちの中で、 ただ、一人の人と結ばれる「縁」という確率。 そして、普通に妊娠できる確率。 その生命が、順調に育つ神秘の力の確率。 元気な赤ちゃんが誕生するまでのこの一連の流れは、 とてつもなく、偉大なことなのだと、改めて感じました。 それを考えたら、今ある、自分の「命の確率」に、 感謝せずにはいられません。 私を生んでくれた、父と母に、「命」を感謝したい 気持ちでいっぱいです。 私は、今回、心臓が動き出していた小さな命を、 救うことができませんでした。 そして、この先、二度と、新しい命を作ることが できないかもしれません。 だからこそ、「命」を大切にして。自分を大切にして。 ということを、皆さんに伝えたいのです。 一滴づつ落ちてゆく、点滴を見つめながら、 私は、そんなことを、考えていました。 |
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この文章を書いた、翌年の夏に、長男が生まれました。 自分が、こんな風に、手術、そして出産を体験して、 女性としての人生観にも、重みが増したような気がします。 そして、様々な思いがある、新郎新婦のご両親の気持ち、 ご本人たちも、もちろんですが、そんなご両親の気持ちを、 忘れないように、大切にしながら仕事することを心がけています。 戻る |