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日記 すき きらい

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史上最低の作戦1史上最低の作戦2史上最低の作戦3史上最低の作戦4歌声は風にのって

1984年?某月某日 歌声は風にのって

その日は、ザ・ベストマガジンという雑誌の仕事で、赤坂にある会員制の社交クラブを取材していた。雑誌の最後にあるコラムの仕事で、カラーの写真と原稿用紙2枚ほどの記事で1本2万円ぐらいだった。月刊誌だったので、月に4、5本ぐらいコンスタントに入ってくる。こずかい稼ぎ程度の仕事だが、数時間取材して、その後、喫茶店で原稿を仕上げて2万円というのは、ちょっとおいしかった。

社交クラブとゆーと聞こえはいいが、独身の若い男女が集まって、集団見合いをしようってだけ。まあ、そこに入るためには、収入やら学歴などを審査して、ある程度以上じゃないと入れないとゆー、オレがいちばん嫌いなやり方だったんだけど…。それは今の話とは関係ない。

さて、赤坂の事務所を訪れて、名刺を交換し、テーブルに腰をかけて取材が始まった。まず、そのクラブのデータをもらって、それについていろいろ尋ねていた。その時だった。

「あの〜、新宿御苑前から地下鉄に乗ってらっしゃいません?」
 いきなり、目の前の女性がそう尋ねてきた。えっ。オレは、しばらくの間、じっとその女性の顔を見つめた。知りあいだったっけ。いくら見つめても、全然覚えがな〜い。そうやって、オレが固まっていると、女性の方は自分の質問が的中したものだと思ったのか、次を続けた。
「時々、見かけたような気がしたものですから。それと、失礼ですが、よく歌を歌ってらっしゃいません?」

げげっ。そーきたか。ううっ。こりは、やばいかも…。

実は、オレは高校生の頃から、歩いていてヒマだったりすると、ついつい歌を歌ってしまうとゆークセがあった。どういう歌かというと、いろいろである。ほとんどが洋楽だった。ポピュラーやロックのこともあったが、フランク・ザッパ等の、バックなしで歌った場合、かなりあぶない歌も平気で歌っていた。高校ではよく知られていたが、それ以外のことでも有名だったせいか、あの人なら変な歌を歌っててもおかしくない、とゆー理由で、誰も変には思ってなかった。
 高校を卒業した後も、そのクセはやむことはなかった。フリーライターをしていた当時は、ウォークマンをつけて、集英社等の出版社に出かけていた。その頃は、まだそういうスタイルが一般的ではなかったから、仕事中に…とゆー声も少しはあったみたいだ。さすがのオレも社屋等の内では、歌は歌わなかったが、一歩外に出ると、それまで我慢していたものがいっきに溢れだして、つい歌い出してしまうのだった。
 もちろん、それは自分の部屋の近所でも同じだった。どこに行くときも、ヒマな時は歌を歌いながら歩いていた。
 そんなわけで、その言葉を聞いた瞬間、かなりやばい方へ話が向かうのではないか、そんな予感がした。

彼女は、何も言わないで、あせりまくっている様子を見てとると、やはり質問が的中したものだと思ったのか、次を続けた。
「私も新宿御苑前から地下鉄に乗ってるんですけど。」

ここに至って、オレは覚悟を決めた。そうさ。タコさ〜。タコになってやるさ〜。
 歌を歌いたんだも〜ん。いいじゃないか〜。歌ぐらい歌ってもさ〜。

「いつも歌ってますよ。なんかヒマになると、ついつい歌を歌っちゃうんですよね。それにけっこうリズムに乗って歩くと楽しいですよ。歌はお嫌いですか。」
 オレはもうあきらめて、思いっ切り肯定した。ううう。

「そんなつもりで言ったわけじゃないんですけど。うちの近所でも有名みたいなので。マンションなんですが、近所の人もいつも歩きながら気持ち良さそうに歌を歌ってる方がいるって、ウワサになってましたよ。」

ううう。がちょ〜〜〜ん。そこまで。そこまでとは正直思いませんでした。東京恐るべし〜。

もうあきらめて、いったいどこでウワサされてるんだろ、そう思って、彼女にいろいろ質問をしてみた。そうすると、直線距離にしてオレの部屋から 1km 以上も離れてるマンションだとゆ〜ことがわかった。オレもよく散歩してふらふらしてるけど、確かにそのへんは通った覚えもあるけど、ううう、まさかウワサになってるなんて〜。

しかし、その話のおかげで、その場はいやにリラックスした空気になってしまい、取材そのものはとても順調に進んだのでした。いや〜、オレっていろんなテクを持ってるからさ〜。ふっふっふ。

この事があって以来、オレはいつもより2割ぐらい歌を減らすように努力した。しかし、それも1週間ほどしか続かなかったことは、言うまでもない。

教訓 歩きながら歌を歌わないように。風に乗ってどこまでも流れていきます。


管理人:神吉 秀典 E-mail:puer@ba.wakwak.com