アイドルを殺せ
読者から怒りの投書が舞い込んだ.「新聞でリモコン・エンジンスターターなる新製品の記事を見たが,まったく承服できない.無駄なアイドリングなど止めようという時代にこんなものを売るメーカーの見識を疑う」という主旨である.普段あまり興味がないので見過ごしていたが,調べてみると数社から発売されていて,用品店でけっこう人気があるらしい.特に寒冷地で売り上げが伸びているほか,若者の間では一種の流行めいたアイテムになりかけているという.屋内から無線スイッチで駐車場の車のエンジンを始動させ,しばらくして行くと冷房や暖房が効いていて,すぐ快適という装置である.
これは『有害な装置』だと思う.(途中略)最新の現代車といえども,大気汚染の一因である.それならなるべく害が少ないように乗るのが礼儀というものだ.その最低限のさらに最低限の最たるものが,走らない状態でエネルギーを使ったり有害物質を出したりしない,つまり停車中に長々とアイドリングなどしないということなのはいうまでもない.(途中略)それなのに,たかが寒いぐらいで延々とエンジンをかけておくなど言語道断である.中には1時間も暖めるユーザーもいるそうだが,日本の大半はドイツやスウェーデンより暖かい.少なくともCGの読者だけでも,こんな悪習とは縁を切ってほしい.(途中略)ドイツのメーカーは無用のアイドリングを禁ずる法律があることもあって始動したらすぐ走るように奨励しており,ポルシェなど日本語の取り扱い説明書にまで「エンジンがかかったらすぐ走り出してください」と明記しているほどである.(途中略)ターボエンジンで走行後,キーを抜いて立ち去っても自動的にしばらくアイドルさせ続ける装置にも,少し疑問を呈しておきたい.たしかに排気タービンは非常に高熱になるから,そこに巡っている冷却水やオイルが急に止まると軸受けに悪影響が出やすいというのはわかる.ただしそれはかなり全開に近い運転を続けた直後のことで,普通は停止寸前までそんな運転ができる状態などない.たとえ高速道路で連続全開ができたとしても,サービスエリアなどに入る手前からしばらくペースを落とすから,かなり冷却されているのではないか.というより,停車に向けてそういうクールダウン効果のある運転をしなければ,停まった途端にエンジンルームにワッと熱気がこもってしまう.さらにそこへアイドリングの追い打ちをかけたのでは逆効果ではないのか.ましてや市街地での普通の走行の直後にわざわざアイドルさせておくなど,かなりナンセンスにも思える.(途中略)まあ例外もあるだろうが,たいていの場合,このように漫然としたアイドリングは意味がないどころか有害でさえある.普通の信号待ちぐらいならともかく,踏切,車庫のドアの閉開など,ちょっと停車が長引きそうだったら,すかさずエンジンを切ろうではないか.百歩どころか万歩譲って,ちょっとばかりのウォームアップやターボのクールダウンが必要だとしても,その間ぐらい付き添っていてやるのが,愛あるエンスージアストの態度ではないか.
CG 1994.02 EDITORIAL(熊倉 重春氏)より無断転載
上の記事に対して読者からの意見  CG 1994.03 from READERS
CG2月号のEDITORIALを読んで
無駄なアイドリングをやめろという主旨でしたが,その中でエンジンスターターが槍玉にあがっていました.けれども私たちのように寒冷地に住む者にとって,これは,ほとんどの人が欲しいと思うアイテムだと思います.
朝起きて,深い雪の中を長靴はいて駐車場まで行きエンジンをかけて引き返す.毎日こんなことをしているとアホらしくなってきます.
暖気はガソリンの無駄だから,エンジンをかけたら早く走りなさいと言っておられますが,ガラスに氷や雪が張りつき前が見えなくて,それどころではありません.雪払いや氷はぎのヘラというものもありますが,車内が人息で曇ってしまうので同じことです.
また別の角度から見ると,車は人間にとって部屋の一部であることを忘れておられるのではないでしょうか.家庭用のほとんどのヒーター,エアコンにタイマーがついているのと同じだと思います.
ハードのCGとしては使う側の事情まで考えるのは編集のポリシーとは違うかもしれませんが,それにしても一度使ってみてから記事にするのが本当ではないでしょうか.
                                秋田県 I氏より
・「アイドルを殺せ」に心から拍手を送ります.アイドリングを続けたまま荷物の積みおろしをするトラックなどを見ると,ドイツのように法制化しなければ,環境意識の低い日本では解決できないのではないかと思ってしまいます.       静岡県 O氏より
それに対して編集長より
私は北海道にたくさん親戚がいますので,寒い国の朝がどんな状況か,よく知っています.もっと寒いドイツやスウェーデンの冬も,車で走りまわったことがあります.それを承知のうえで,やはりリモコン・エンジンスターターなどは使って欲しくないと思います.厳寒期には始動してすぐ走るわけにもいかないかもしれませんが,それでも車を暖める段取りを最小限にする工夫はしなければなりません.ドイツでは,たとえウィンドーに雪や氷が張りつめていても,エンジンの熱で除去すること自体が違法です.スクレーバーで掻き落として,それからエンジンをかけて発進するように決められており,それに従わないと,警察云々の前に,通りがかりの人に大声でクレームをつけられるほどです.もちろん,ガラスの曇りは難物ですが,デフロスターが完全に効くようになるまでアイドリングだけで延々と待つなど,環境に対する大罪だと思います.不便を忍んで,ほかの工夫をすべきではないでしょうか.(以下略)
webmasterの独り言:読者の反論に対して少しもひるむことなく,持論を貫く熊倉元編集長に敬意を表します.でも人間って楽なことを一度覚えると,ダメだとわかっていてもやってしまいますよね,何でも…….ドイツの話はちょっと極端だとしても,やはり周りに騒音・排気ガス等で迷惑がかかるような,不必要なアイドリングは即刻止めたいものですね.                             1998.12.29追加

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