「急ぐ気持ちはわかるけど」
東北道で,取材へ向かう途中の出来事だった.
GT-Rで流れに乗って巡航していた時のこと.さっきからルームミラー越しに気になっていたクルマが一台あった.けっこうギンギンにチューニングされたRX-7だ.
やや混んでいる東北道を,3車線いっぱい使って右に左に追い越しをしている(傍からみると,あんまり前には進んでいないんだけど.このパターンって皆さんもたくさん見ていると思う.熱くなっている本人は真剣なんだろうけど,間抜けにしか見えないんだよね.)
で,ようやくGT-Rマガジン号の後ろに追いついてきたわけだ.(うちのクルマの前はずっと混んでいる.)すると今度はもう一台,NSXが左の車線からRX-7の前に割り込んできた.ルームミラーで見る限りは,そんなにひどい割り込みのようには見えなかったけれど.
その直後,割り込まれた7が逆襲に出た.左車線に出て,再びNSXの前に強烈に割り込んだ.多分,スピードは100km/hくらいだろう.もちろんNSXはブレーキング,危険回避しようとした.すると今度は,NSXは左車線に移動.それを見た7がすかさず左車線に移ってブロック.スピードは見る見るうちに落ちていき,ルームミラーから遠ざかる.
2台はしばらくの間ブロック合戦に,終始.完全に周りの状況が見えないようだ.周囲のクルマは,迷惑な2台のおかげで,右往左往.そして,2台の周りからどんどん離れていった.
しばらくすると2台は完全に,視界から消え去った.もしかして,事故でも起こしたんじゃないだろうかと心配したが,随分あとになってNSXがルームミラーに入ってきた.とにかく,事故らなかっただけでもよかった.
この日は日曜日の午前中で,行楽地へ向かうクルマでやや混みの状態.どんなドライバーがいるかわからないし,いくら自分は運転がうまいと思っていても,相手の力量まではわからない.それなのに,なぜこんなことになるのだろう.もし,人身事故にでもなったら自分が損するだけなのに‥‥.
今回の場合,どちらに非があるかは断定できなかったが,ケンカ両成敗といったところだろうか. もし,たとえ相手の割り込みがひどかったとしても,それに対抗してしまえば,自分も同じレベルになってしまう.
いいじゃないか,割り込まれたって.混んだ道路での追い越しによって先に進んだって,たかがしれている.100kmくらいの距離を移動するなら,時間にして,その差はほんの数分しかならないはずだ.
だったら遅れた分は,道路が空いた安全な部分で,取り返せばいい.空いた安全な道路なら,あっと言う間に差を縮めることができるだろう.バトルがしたいなら,サーキットで思い切りすればいいだけだ.公道は,あくまでも公共施設なのだから.
みんなも,きっとこの意見に賛成してくれるだろうし「そんなことは当たり前じゃん」と思っているGT-Rのオーナーがほとんどだと思う. 高速道路をGT-Rで左車線を流れに乗って走っているのを見ると,GT-Rに乗る前(ほかのクルマに乗っていたとき)は,「GT-Rにしてはのんびりしているな」と思い,しげしげとオーナーの様子を伺うこともあった.
でも,実際GT-Rに乗ってみると,このオーナーの気持ちはよくわかると思う.ものすごく,運転に余裕が生まれるのだ.GT-Rという日本一速いクルマに乗っているという自負心が,気負いを無くしてくれているのだろう.
変な対抗意識が,消え去ったと言えばいいだろう.この気持ち,きっとオーナーの人には実感してもらえると思う.「急いでいる人は,どうぞお先に.抜きたいときに抜かせてもらうから」と.
どんなときでも,余裕の運転を忘れたくないものだ. GTRマガジン編集後記より(無断転載)
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