かくして私のレストアはいつもいやおうなしに始まってしまう
これは断言したいのだが,クルマ趣味の真骨頂はレストアにこそつきる.それも人にカネを払ってやらせるレストアなどではなく,この手を油に汚して自分で行うレストアのことである.
308(フェラーリ)をレストアするのは実に楽しかった.
実はそれはレストアを目的に最初スタートしたのではなかった.目的は……ただの掃除だったのだ.
中古のガタガタの308.ガレージに入れてまずすることはエンジンルームをあけて懐中電灯で中のぞき込むことである.新車をおろして10年15年走ってきた308になると,大抵トランスアクスルの上にたっぷり1cmはドロが乗っているものだ.エンジンルームの中にホースを引き込み,水をがんがんかけてその泥を洗い落とす.ついでだからシャシーやサス回りにも洗剤をたっぷりつけ,ブラシを使って徹底的に洗う.やってみたことのある人でなければ決して信じられないだろうが,そうして洗い流された泥はときとして何kgにもなるのだ.そんなものを大事にかかえてここまで走ってきたのである.
これで多少すっきりする.
お次はインテリアだ.
クルマの中には実にいろいろなものが落ちているが,それはゴミのたぐいだけではない.あまったネジやボルト,配線,ヒューズ,バルブ,どこかの部品……いってみればそいつは過去のトラブルの巣窟だ.フェラーリのシートはボルト4本で簡単にはずれるから,シートをはずしカーペットをはぐってとにかくナニが出てくるか見たほうがいい.(右上)
で,発見する.床にのたくるあやしげな配線.どうせカーステレオのスピーカーコードかパワーアンテナのコードなのだが,中にはダメになったテールランプの配線をバイパスして連結してあるといった過去のずさんな整備の形跡であることだってないとはいえない.とにかくぶった切り,根本をだどっていくとインパネの裏にたどりつき,そこは大抵めちゃくちゃな有様になっている.タコ足配線,リレーのバイパス,ライターあぶりとかし結線にビニールテープの洪水だ.メッキのステーを手で曲げて強引に取りつけてあるカーステレオ,強引に締めつけられてヒビ割れしたダッシュボード.
こうして私のレストアはいつもいやおうなしに始まってしまう.2日もしないうちにインパネをはずしセンターコンソールをはずし,ドアが裸になる.したくなくてもそうしなければ治せないのだ.はずれたパーツをガレージの中に放っておくわけにもいかず,泥と埃を払って部屋の中に持ち帰り,置いておくことになるだろう.で,いっちょヒビの入ったFRPでも直してやるかということになる.
たとえ308と10万キロのドライブを共に過ごした人がいたとしても,私はその人より100倍308のことを知りつくしていると胸を張るだろう.今でも思い出せる.燃料ホースの引き回しはどうだったか.冷却管の取り付けがどうなっていたか.シートのヒンジの構造と材質はどうか.ボッシュのリレーはいかにしてアルミの基板に固定されているか.配線の引き回し,シフトリンケージ調整のかなめとなる小さなパーツの仕組み…….だから308に乗るとどこがイカレてそうなったのか.イヤでも分かってしまうのだ.レストア以上にクルマのことを詳しく知る方法はないし,それは1000冊の洋書を読破するよりもいろんなことを教えてくれるのである.
福野礼一郎のスーパーカー型録(カタログ)より
webmasterの独り言:福野氏の説に大賛成.クルマの隅々を見て,さわって,壊して,そしてクルマへの愛着がますます深まっていくものだと思います.私のHPの原点もそこなのですが…….

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