コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) #4



宮藤官九郎(宮藤官九郎)
阿部(阿部サダヲ)
ピンキー(原田泰造)
あけみ(名倉潤)
謎の男(堀内健)
リサ(ベッキー)
田宮一郎(内村光良)
宮藤の母(南原清隆)
ナレーション(青木さやか)



○タイトル『火曜 犬の劇場』

○タイトルバック映像

 コーポ田宮の主題歌が流れる中、Gメン風に横一列で歩いて来る、あけみ・ピンキー・田宮・宮藤母・リサ・阿部の映像。

僕らの住んでるアパートは〜お風呂はないけど夢がある〜

 青空の下の姫路城の映像。画面下にテロップ『姫路城』
 砂漠を走るラクダの映像。テロップ『らくだ』

敷金礼金ゼロだから〜

 網の上で焼けているステーキの映像。テロップ『プライムリブステーキ』

酒を飲むのでしょう〜

 泡の上に赤い花弁を散らしたジャグジーに浸かっているあけみ。テロップ『未亡人(あけみさん)』

あけみさんは未亡人〜誰かもろて

 刑事ドラマの中の刑事の格好で銃をかまえ、胸に被弾するピンキー。テロップ『食いしん坊(ピンキー先輩)』

ピンキー君は食いしん坊〜ライス多めで!

 黒バックに、時代劇の侍の格好で刀をふる阿部。テロップ『侍(アベちゃん)』

アベちゃんは猫顔でかわいい〜ニャー!

 ねぷた祭り?の映像をバックに、浴衣姿で踊る宮藤母とリサ。テロップ『かあちゃん ゴールドフィンガー』

そして〜コーポ田宮の〜

 黒バックに、白い巨塔ばりの白衣姿でたたずむ田宮。

大家さんの名前は〜大家さんの名前は〜田宮一郎〜

田宮 ふっふっふっ〜♪

 画面左斜め上にタイトル『コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑)』

SAY YES〜

 スケッチブックの紙にエンピツで適当に描いた宮藤の顔。テロップ『脚本 宮藤官九郎』


○宮藤の部屋

 集まってビデオを見ていたらしい、あけみ・ピンキー・リサ・田宮・阿部・宮藤。宮藤を除く一同、見終わったビデオの出来に歓声をあげている。

阿部 最高〜!
ピンキー すご〜い!
リサ サイコウ〜。
田宮 やっぱねえ、三日三晩、たっぷり睡眠とりながら編集したからね。
あけみ わたしの入浴シーン、視聴者ひかへんやろか。
阿部 全然ですよ、あけみさん。いいですよねえ。
ピンキー うん!
阿部 …あれ。作家先生は、またブルーか?
田宮 どうした、筆の遅い先生〜!
あけみ どうしたん。(と、宮藤にまとわりつきに行く)
宮藤 また俺、出てなかった。
ピンキー (似顔絵の描いてある紙を見せ)出てたじゃん、似顔絵。
宮藤 なんで、なんでそんなラクガキみたいな絵なんですか、俺だけ。
ピンキー おい、らしくないぞ宮藤。
宮藤 (あけみをひっぺがし)もうね、ちょっといい加減にしてください。なんで俺のことそうやって、いつもいつもね、仲間外れにするんですか。
阿部 言ってやりましょうか。歯並びが、悪いからだよ。
宮藤 
阿部 あ、間違えた間違えた。台本を、書かないからだよ。
宮藤 なんだその間違え方は!
田宮 まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないか、傑作のタイトルバックが出来たんだから。あとは台本ですよ、筆の遅い先生〜!
宮藤 なんなんだよ。あんたたち、何やりたいか全然わかんないよ。姫路城とかさ、らくだとかさ、ステーキとかさ。
田宮 視聴率のためですよ。旅、グルメ、音楽、お色気、その他もろもろ。そして他人の不幸、と言えばこの歯並び。ここ強調して。
宮藤除く一同 おお〜。
田宮 あらゆる要素を全部とりこんで。
宮藤 いやいや、別にイヤじゃないもん。これ不幸じゃないもん。
田宮 不幸だもん。不幸だもん。
宮藤 不幸じゃないもん。
田宮 筆の遅い先生〜!
阿部 …ちょっと、ちょっといいですか皆さん。この人、誰ですか。

 と阿部、さっきから田宮の隣りに普通に座っていた、向かいの部屋の女・リサを指差す。

リサ What?
あけみ そういえば、ちょいちょい見かけるけど…
田宮 ああ、私の娘だよ。

 あけみ・ピンキー・阿部・宮藤、すごく驚く。

4人 えっ!?
田宮 あのー、英語で言うと、マイ・ドーター。
阿部 マジっすか!?
田宮 うん。
阿部 マジなんですか!?
リサ (立ち上がって笑顔で挨拶)ビンボーの皆さん、はじめまして。リサ・エリザベス・ゴールドフィンガーです。
宮藤 ビンボーの皆さん?
ピンキー べりだれす・ごーるどひんがー?
田宮 (立ち上がって)エリザベス・ゴールドフィンガーだよ。実はね、私の女房はね、イギリス人なんだよ。
あけみ え〜!
宮藤 ああ〜。
阿部 じゃあ、ハーフなんですか?
田宮 あ、でもね、女房の子じゃないんだよ。私のね、コレの子。
あけみ え、え、隠し子?
田宮 (得意そう)うん。
ピンキー 大家さん、モテるからなあ〜。
阿部 愛人もイギリス人なんだ〜。
田宮 いや、愛人は日本人だよ。

 あけみ・ピンキー・阿部・宮藤、軽く驚く。

4人 え?
阿部 …なんで? 日本人同士なのに、なんでこの人だけハーフなんですか。
田宮 わかんない男だなあ。だから、愛人の彼氏がイギリス人なんですよ。
阿部 え? じゃそれ、大家さんの子じゃないじゃないですかこの子は。
田宮 (座って)そうなんだよね。関係ないんだよね。ってことは、愛人にもだまされたってことなのかなあ。
リサ オー、ダディ〜。(座って笑顔で田宮に抱きつく)
田宮 (笑顔で抱擁にこたえ)オー、ベイビィ〜。でも、かわいいんだよね〜。私もね、女房に逃げられてね、独り身が長いから、そろそろ再婚しようかと思ってたんだけど、見つかったよ! 再婚相手。

 あけみ・ピンキー・阿部・宮藤、驚く。

4人 え!
あけみ 大家さん、再婚すんの?
田宮 お、紹介しようか。うん。

 田宮とリサ、ドアのほうへ歩いていく。

田宮 ちょっと照れるけどね。(ドアに向かって)入っておいで。

 ドアが開き、宮藤の母が入ってくる。

母 はじめまして。
宮藤 うちの母ちゃんじゃないですか!
田宮 泰子(たいこ)。
母 あ、やめて…女の弱いわたし〜。

 田宮、母の手をひいて座らせ、自分はその背後に座って母の身体をまさぐる。
 母、それを隠すように、うずまき模様の番傘を前でくるくる回している。
 田宮の後ろで喜んでそれを見ているリサ。

田宮 ほーれ、ほーれ。
母 ああ〜、やめて、ああ〜。
宮藤 …あんたら、いい加減にしなさいよ、ちょっと!
田宮 めくるめく愛の世界。めくるめく愛の世界。
母 ああ〜。ああ〜。
宮藤 いい加減にしろよ! うちの…
田宮 見てんじゃねえよ!
宮藤 うちの親も見てんだよこれ。
田宮 見てんじゃねえよお!
母 なに言ってんの、俊一郎。
宮藤 姪っ子とか好きで見てんだよ、この番組。
母 なに言ってんのよ。あたしがあんたの親でしょ!あたしはね、運命の人に出逢ったんだよ。
リサ オー、マミィ〜。イェ〜イ。(笑顔で母に抱きつく)
母 オ〜。(笑顔でこたえる)

 母、再び番傘をくるくる回す。その中に仲良く入る形になる、リサ・母・田宮。

宮藤 …ちょっと、すいません。すいません、いい感じのとこすいません。あのー、っていうことは、僕は、大家さんの息子っていうことですね。
田宮 そうだよ。今日から、田宮官九郎だ。
宮藤 ああ。
リサ オー、弟よ〜。(笑顔で宮藤に抱きつく)
宮藤 おー…ということは、俺、もう、家賃払わなくていいんだ。
田宮 いやそれは、全然違う次元の問題だから。
宮藤 なんで!?
田宮 月々50万、きっちり払ってもらうから。
宮藤 高いよ! 50万って、この部屋で。
田宮 50万っていったら…泰子、ハネムーンに行けるよ!
母 え? あの和歌山へ?
田宮 そう、あの二人が夢見た和歌山へ。
母 和歌山へ。
田宮 いざ、和歌山へ。
母 和歌山へ。
田宮 和歌山へ。

 田宮と母、和歌山へ〜と繰り返しながら幸せそうに部屋の外へ出ていく。
 喜んでそれについて行くリサ。
 同じく喜んで、和歌山!和歌山!とコールしながらついて行く阿部、ピンキー、あけみ。

宮藤 ちょっと、母ちゃん? …もっといいとこ連れてってもらいなよ…。(今更ながら困惑)


○1階の廊下

 ピンク電話が鳴っている。リサ、やって来て電話をとる。

リサ ウェル?…オー、イェ〜イイェ〜イ。…ハン? …誰が、キューティー鈴木やねん! 古いねん! 古いねん!

 宮藤が慌てて階段を下りてきて、受話器をひったくる。

宮藤 どけ!(リサに頭突き)
リサ いてっ!(倒れる)
宮藤 (電話が切れてないかと確認)もしもし? あ、あーよかった。もしもし。
リサ(声) 弟よ〜。
宮藤 うるさい! …あー、はい。ドラマ。TBSの。はい、はい。あの、書いて、ます。ません。あーいや、書いてます書いてます。あの、今、何話撮ってますそっち。…あー5話ですか。5話。こっちもね、5話書いてんですよ。へぇ〜。奇遇ですね。…ダメじゃないですかそれじゃ。
リサ(声) 弟よ〜。
宮藤 うるさいって! …あ、大丈夫、大丈夫です。すぐ、すぐ行きますから。はい。
リサ(声) 弟よ〜。
宮藤 うるさいって!(画面外でリサを蹴っ飛ばしたらしい)
リサ(声) オ゛ー!

 急いで走っていく宮藤。


○宮藤の部屋

 阿部とピンキー、ドアを開けて戻ってきたところ。

阿部 なあんだ、ハネムーンって二人で行くんですね。
ピンキー 初めて知ったね。

 と話しながら部屋に入る二人。と、ピンキーの様子がいきなり変になる。

ピンキー あ…来た、来た来た。
阿部 どした?
ピンキー (テーブルに頬杖ついて)はぁ〜。はぁ〜。
阿部 なんすか、ピンキーさん。急にため息ついちゃって。
ピンキー 言っちゃおうかな〜。それとも、言わまいかな〜。
阿部 (面白がって)言っちゃえよ。ピンキー。アベちゃんに言っちゃえよ。
ピンキー …好きになっちった。
阿部 え、誰を?
ピンキー さっきの、向かいの女の子。
阿部 マジで?
ピンキー えへへ〜(照れ笑い)
阿部 マジで!?
ピンキー (立ち上がりながら)マジでマジで、マジ、マジで恋する5秒前。ごー、よん、さん、にー、いち、ゴールドフィンガー〜!!
阿部 …いやいや、ねえ、ピンキーさんピンキーさん。「ゴールドフィンガー」は、名字だから。
ピンキー マジで?
阿部 うん。
ピンキー じゃ、なんて呼べばいいんだ…あ、そうだ、リサちゃんだ。俺はね、リサちゃんにひと目惚れをしたんだ! 俺、リサちゃんの写真を部屋いっぱいに広げて、そして、チューをするんだ!
阿部 なんだよ、そんなことかよ。
ピンキー え? ほかに何かすることあるの。
阿部 いや、つきあうのかと思ったの。

 間。

ピンキー えー!?
阿部 …声が、でかいの!
ピンキー だってアベちゃん、聞いてよ。あのー、写真をいっぱい広げてチューをしたり、ちょっと下着を盗んだりすることを、つきあうって言うんじゃないの。
阿部 違いますよ。
ピンキー えー? ほかに何があるの。
阿部 いいですか、ピンキーさん、聞いてね。一緒に、遊園地に行ったりさ、
ピンキー !? ちょっと〜(嬉しい)
阿部 手をつないで花火を見たり、
ピンキー おぉ〜!!(興奮してる)
阿部 自転車に二人乗りしたり。二人乗り。
ピンキー バカなこと、バカなこと!!
阿部 流れ星に二人で一緒にお祈りをしたりするの。
ピンキー あははぁ〜!! それ、いくら出せばいいの?
阿部 払わなくていいの。
ピンキー タダなの?
阿部 タダだよ。だって、恋人同士だもん。
ピンキー …やったーっ! すごいサービスを見つけたー!
阿部 (満足そうな微笑み)よし。…ピンキーさん。僕ね、思うに、リサちゃんも、ピンキーさんのこと好きなんじゃないかな。
ピンキー (嬉しい)マジでぇ?
阿部 マジでマジで。気のせい、気のせいかもしんないけど、ね、ね、聞いてね、リサちゃんね、この部屋に入ってきたときに、部屋に入ってきたときに、ずーっとピンキーさんのこと見てたんですよ。(と言いながら、ピンキーの喉仏のあたりを指さしてる)
ピンキー マジで? ここ見てた?
阿部 ここ見てた。
ピンキー ウソだろ。
阿部 ここだけずーっと見てた。
ピンキー そんなウソな〜。そんなウソな〜。
阿部 ウソなことない、ウソなことない! よし、じゃこうしましょう。アベちゃんが、なんとかしましょう。
ピンキー マジで!? アベちゃんが!?
阿部 ええ。このスーパーフリーの、あっ間違えた、フジテレビのアベちゃんが、なんとかあの子のOKサインをいただいて帰ってきますよ。
ピンキー できるの?
阿部 ええ。
ピンキー ありがとう、アベちゃん!
阿部 命がけで。
ピンキー うん。
阿部 社運をかけて。(と言いながら、部屋を出ようとしている)
ピンキー 今、行くの?
阿部 今、行きますよ。今、連れてきますから。二人っきりにしちゃいますからね。
ピンキー わかった!
阿部 たのみますよ。

 張り切って出ていく阿部。


○廊下

 出てきた阿部、後ろから顔を出すピンキーを制してドアを閉め、向かいの部屋のドアをノックする。

阿部 おはようございます。フジテレビの、アベちゃん…

 と、向かいの部屋のドアが開き、スキンヘッドに近い頭&サングラス&毛皮の衿&真っ赤なTシャツの、ワイルドな風体の男が顔を出す。

阿部 (絶句)
男 (サングラスを外す。顔には謎のメイク) 誰?
阿部 えっと、あの…フジテレビの、
男 フジテレビって、誰。
阿部 え? …フジテレビの、あの、アベちゃんです。
男 アベちゃんって、なに。
阿部 え? …え、ADです。
男 ADって、どこ。
阿部 どこ…、…お台場ですよ。
男 お台場って、いつ。
阿部 いつ…、…たぶん、今かな。
男 今かなって、おいしいの。
阿部 …おいしいです。
男 はったおすぞ、この野郎!
阿部 すいません、間違えました! 間違えました!

 阿部、慌ててドアを閉めて逃げる。


○宮藤の部屋

 あたふたと戻ってきてドアを閉める阿部。
 ウキウキして待ってたピンキーが出迎える。

ピンキー あっ来た! どうだった?
阿部 OKです。
ピンキー やったーっ!! 女の子と、初めてつきあえたー!!

 大喜びで窓のほうに走っていくピンキー。


○窓の外

 窓から顔を出して叫ぶピンキー。

ピンキー おかあさーん! つきあえましたー! V、V、V、ビクトリー!

 と歌った後、でんぐり返しして窓の外に落ちていくピンキー。

阿部 ピンキーさん!
N 次回、ピンキー先輩とリサちゃんの恋の行方は、いやその前に、台本はいったいいつ出来るのでしょう。

 画面にテロップ『コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) つづく』。
 阿部、ピンキーに窓からロープをたらしてやっている。
 ロープにつかまって上ってくるピンキー。
 上までたどりついたところで、阿部、ロープから手を離す。
 再び落ちていくピンキー。
 笑顔で手をふっている阿部。


(03.12.31 特番『さよなら去年まで祭り』内にてO.A.)