コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) #3



宮藤官九郎(宮藤官九郎)
阿部(阿部サダヲ)
ピンキー(原田泰造)
あけみ(名倉潤)
小松(堀内健)
女(ベッキー)
田宮一郎(内村光良)
宮藤の母(南原清隆)
ナレーション(青木さやか)



○タイトル『火曜犬の劇場 コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑)』

○ナレーションの声と同じ内容の文字が出ている画面

N この時間は宮藤官九郎脚本の連続ドラマをやっぱりお送りしません。台本が間に合いませんでした。なぜならこんな調子だから


○宮藤の部屋

 素人ビデオ風のちょっと揺れる映像の中、テーブルで茶をすする宮藤母と、その傍らにいる宮藤が代わる代わる映る。撮影者(田宮)の鼻歌っぽい声がずっと低く聞こえている。

田宮(声) むむむ〜♪(ハミング)
母 ひさしぶりだねえ。
田宮 むむむ〜♪
宮藤 去年の正月以来だから、2年近くだね。
田宮 むむむ〜♪
母 立派になって…。ねえ、いいとこ住んでるじゃないかい。
宮藤 いやあ、そんなことないよ。
母 いくつになったんだい?
宮藤 33だ。
母 そうかい。でも母ちゃん、安心したよ。あんたがこんなに元気そうで。死んだお父ちゃんにも、見せてやりたかっ…(泣)
田宮 大家さんの名前は〜♪
母 しゅんちゃん。
田宮 大家さんの名前は〜♪
母 しゅんちゃん。
田宮 田宮一郎〜♪

 カメラ、ぐっと撮影者の側に回り、田宮の顔がどアップになる。

田宮 カット。
宮藤 大家さん!

 田宮、構えていたビデオカメラを下ろす。

宮藤 邪魔しないでくださいよ。せっかく親子水入らずでやってんですから。
田宮 キャメラ、買いましたよ。キャメラ、買いましたよ。
宮藤 2回言わなくてもわかりますよ。
田宮 どうです、監督っぽくなったでしょう。
母 あら、監督さんなの?
田宮 ええ。今はね、コーポ田宮の大家をやっておりますが、いずれはテレビドラマのディレクターをと思いまして。…はい、カット! チェックOK! チェックOK! えー、夜7時よりドライ再開とさせていただきまーす。なお本日、テレビジョンさんより差し入れが届いておりまーす。(ADっぽく拍手)…こんな感じです。
母 かっこいいねえ〜。
田宮 でもねえ、宮藤君がなかなかホンを書いてくれないんですよ。お母さんからもなんとか言ってやってください。
宮藤 …。
母 …書け。

 宮藤母、口に含んだお茶をやおら宮藤に吹き付ける。

宮藤 わっ! ちょっと!
田宮 哀川翔に頼まれた時は、3日か4日で書いたんでしょ?
宮藤 あ、それは…怖くて。っていうか、大家さん、だまされてますよ。
田宮 だまされた?
宮藤 はい。アベちゃんっているじゃないですか。
田宮 うん。
宮藤 あれ、笑う犬のADじゃなかったんですよ。
母 あらまぁ。
田宮 じゃあいったい何者なんだ?
宮藤 フジテレビの2階に、食堂がありましてね。
田宮 ああ、ラ・ポルトね。
宮藤 …なんで知ってんですか。
田宮 あそこのラーメンおいしいんですよ、お母さん。で?
宮藤 そのラーメンを作ってるのがアベちゃんだったんですよ。
田宮 
宮藤 つまり、アベちゃんはラ・ポルトのアルバイトだったんですよ。
母 あらまぁ〜。
田宮 なんてマルチな男なんだ…!
宮藤 いや、そういうことじゃなくて。
田宮 わかってますよ。つまりこういうことでしょ。ラ・ポルトがこれから笑う犬を作ると。じゃあいったい誰がラーメンを作るんだと?
阿部(声) おはようございます! ラ・ポルトのアベちゃんです!

 ドアが開き、食堂の従業員の制服着ておかもち持った阿部がお尻から入ってくる。

宮藤 あ、ほら!
田宮 アベちゃん?
宮藤 ラ・ポルトの制服だもん!
阿部 失礼します。失礼します。ラ・ポルトのアベちゃんです。ラーメン、ラーメンお待たせしましたー。

 部屋に上がりこみ、持ってきたラーメン三人前をおかもちから出す阿部。

阿部 すいません、ちょっと道が混んじゃって。ごめんなさい。
田宮 あー、ほんとに。あーすいませんねえ。(ラーメン受け取ってテーブルに並べる)
宮藤 すいませんねって…っていうかね、ラ・ポルトの人だったんですよ?
田宮 あっじゃあこれ、のびちゃう前に食べましょうかね。
宮藤 聞いてくださいよ!

 普通にラーメン食べ始める田宮と宮藤母。
 ドアが開き、ピンキー入ってくる。

ピンキー あ、ラーメン食ってる! ずるいよ!
田宮 いやいや、アベちゃんが作ったんだよ。アベちゃんが。
阿部 ピンキーさんの分もありますよ。
ピンキー え、ピンキーの分も?
宮藤 …俺の分じゃねえのかよ。

 テーブルに加わってピンキーもラーメン食べ始める。

田宮 うまい、うまい。
母 おいしいわよ〜。
阿部 あ、そうですか、ありがとうございます。(宮藤に)…で、おい。台本、書いたのかよ。
宮藤 …書かないよ。
阿部 え?
宮藤 書かない。
阿部 (嫌味っぽく)偉くなっちゃったねー、宮藤ちゃんもねー。
宮藤 なに言われても書かねえよ。
阿部 (似てないけど哀川翔のモノマネで)でもよお、俺の頼みだったら書いてくれんだろ? 素意やー。
宮藤 哀川翔っぽく頼まれても書かないよ。
ピンキー 〜〜〜(哀川翔っぽくなにか言ってるが聞き取れず)
宮藤 それ全然似てないっすよ!
田宮 (哀川翔っぽく)兄ちゃん、誰に頼まれたら書くんだ?(けっこう似てる)
宮藤 それは…決まってるじゃないですか、普通にちゃんとしたプロデューサーに頼まれたら書きますよ。
阿部 普通に?
ピンキー ちゃんとした?
母 プロデューサー?
田宮 頼まれたら。
阿部 書くんだね。あ、ほんと。よし。

 阿部、ポケットから携帯取り出して宮藤に渡す。

宮藤 もしもし?
小松(声) もしもしー、もしもしー。
宮藤 あ!


○フジテレビ局内?

 小松と名乗るプロデューサーっぽい男、携帯で話している。
 が、話している場所は食堂のカウンターの中、服装は阿部と同じ制服である。

小松 ちゃんとしたプロデューサーの、フジテレビの小松ですー。


○宮藤の部屋(以下、電話の会話中はカットバックあり)

宮藤 あ、小松さんだ…。
小松 10月からよろしくお願いしますー。
宮藤 あ、はい。
小松 面白いの。とにかくテレビはね、面白いのじゃないとダメなんですよー。

 小松が話している周囲から、「○○丼のかたー」などと客を呼ぶ声が漏れ聞こえている。

宮藤 なんか…すごいガチャガチャうるさいんですけど?
小松 (電話と関係なく、カウンターに丼を置いて)カレーうどんお待たせしましたー。
宮藤 カレーうどん!?
小松 カレーうどんお待たせしましたー。
宮藤 ちょっと、ほんとに小松さんですか?
小松 (電話に戻り)あーお待たせしました。そういうわけで面白いのよろしくお願いいたしますー。
宮藤 いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。
小松 カレーうどん、早く持っていけばいいんだよ!(電話切れる)
宮藤 …切れた。…しょうがない。小松さんに頼まれたら、そりゃしょうがないですよ。
ピンキー え?
阿部 やりますか?
宮藤 書きますよ。
阿部 マジっすか!
宮藤 当たり前じゃないですか!

 決意を固めたように立ち上がる宮藤。一同も色めきたつ。

宮藤 どうせ書くんだったらね、もう『白い巨塔』を超える感動巨編書きますよ。
阿部 おお〜!
ピンキー よく言ったぞ、宮藤!
田宮 君はTBSの専属じゃなかったんだね。
宮藤 違います、フジテレビですよぉ!
母 わたしの息子です、バスケ部でキャプテンで補欠だったわたしの息子です。
宮藤 いやぁ〜。さ、先輩、マックとってください。
ピンキー マック?
宮藤 マック、パソコンですよ。あの、書くから。そのへんにあるでしょ。
ピンキー ああ、マッキントッシュのことか。ない!
宮藤 えー?
ピンキー あれ、もういらないと思って。ラオックスに行ったら、10万円で買ってくれた。
宮藤 ちょっと、何やってんですか!?

 と、いつの間にかカメラを手に横座りしていた田宮が、

田宮 つまりは、こういうことだよ宮藤君。そのマックを売ったお金で、このキャメラを買ったというわけさ。
宮藤 ちょっとー、かんべんしてくださいよ、あれ、大事なデータとか入ってんですよ!?
田宮 消去、消去。気にしない、気にしない。
宮藤 ちょっと…取ってきてくださいよー。
田宮 無理。
宮藤 え? なんで。
田宮 立てない。1ミリも立てない。
母 ぎっくり腰だ!
田宮 そう。ぎっくり腰。
宮藤 マジで…かんべんしてくださいよー。(頭抱える)
阿部 じゃ、こうしましょうよ。このキャメラで、タイトルバック撮りましょうよ。
田宮 タイトルバック?
阿部 はい。
ピンキー あ、わかった。織田裕二がコートなびかせて歩くんだ。
阿部 タイトルバックだったら、台本なしでもいけるでしょ。
宮藤 いやそれ、なんの解決にもなってないっすよ?
阿部 (田宮に)タイトルバックは、ドラマの顔ですもんね。
田宮 よしっ、撮ろう。

 田宮、なんの苦もなく立ち上がる。

宮藤 立てるじゃないですか!
田宮 (阿部にカメラ渡し)じゃあアベちゃん、きみは助監督。
阿部 ういっす!
田宮 クレーンは、お母さんだ。
母 あいよ!
田宮 よし!
宮藤 あいよって、お母さん、クレーンなんか絶対無理ですよ!
母 人生は、泣きっ面に蜂だよ!

 張り切って四人出ていく。宮藤、おいてきぼり。

宮藤 意味わかんねー…ちょっと、お母さん! …母ちゃん、68なのに…。


○2階の廊下

 下着姿のあけみ、タオル手にご機嫌で歩いてくる。

あけみ (鼻歌)ふふふん、ふふふん…あ〜、ええお湯もろたわ〜。

 宮藤の向かいの部屋の女、それを見つけてバカ笑い。

女 アーッハッハッハッ! アーッハッハッハッ!
あけみ なに笑てんねん? なに見て笑てんねん!
女 ユー、毒々モンスター?
あけみ ちがうわアホ! なに考えてんねん。

 あけみ、宮藤の部屋のドアを開けて中に入る。


○宮藤の部屋

あけみ あの子はおかしな子やなぁほんまに。

 と独り言言って入ってきたあけみに、テーブルで原稿を書いていた宮藤、うんざり。

宮藤 隣りですよ。
あけみ あ。もう、いやや、また間違えてもうたわ、わたし。もう恥ずかしいわあ、もう。

 と言いつつ、上がりこんで床に寝そべって雑誌(週刊プレイボーイ)読み始めるあけみ。

宮藤 ちょっと、仕事中なんですけど。
あけみ ああええやんか、邪魔せえへんから。
宮藤 もう…なんなんすか。
あけみ (雑誌のページ見て微笑み)宮藤ちゃんも、男の子なんやね〜。
宮藤 いやいや。違いますよ、それ僕が連載してる雑誌なんです。だから。
あけみ あ、そう。じゃあおんなじポーズしたるわ。ほら。

 雑誌のグラビアと同じ?足を上げたポーズなんかしてみせるあけみ。

宮藤 (嫌がる)いや、いいです、いいです。
あけみ どう?
宮藤 全然、いいです。
あけみ 見たいんやん、わたしの。
宮藤 (目をそらし)いや見てないです、見てないです。
あけみ 見たやんか。
宮藤 見てないです、もう、やめてください。
あけみ もう、恥ずかしがることないやろ、もう。…みんなは?
宮藤 え? ああ、なんかタイトルバック撮りに行くとか言ってましたね。
あけみ あ、そう。よいしょ!

 と言っていきなり宮藤を押し倒すあけみ。

宮藤 ! ちょ、ちょっと! やだー!
あけみ 誰も見てへんから!
宮藤 いやいやいや!
あけみ 誰も見てへんから。
宮藤 痛い、痛い痛い…あ!

 窓の外から、撮影用のクレーンに乗った田宮がカメラで狙っていた。

あけみ いや〜ん、何すんの宮藤ちゃん!
宮藤 えー!?
田宮 カット! いい絵、撮れましたよあけみちゃん。
あけみ ほんま?
母 撤収なんだよ〜。
田宮 はい、撤収!

 宮藤母がクレーンを操作して、2人、窓のところから離れていく。


○窓の外

宮藤(声) ちょっと、母ちゃん!?
田宮 はい、クレーンダウン。
母 ダウンなんだよ〜。
田宮 はい。えー明日は朝9時より、千葉県にある東京ドイツ村で撮影しまーす。

 田宮と宮藤母、クレーン振って去る。
 窓から顔を出して見送る宮藤。
 画面にタイトル文字『コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) つづく』。

宮藤 …もう、やだーーっ!!



(03.10.28 O.A.)