コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) #2



宮藤官九郎(宮藤官九郎)
阿部(阿部サダヲ)
ピンキー(原田泰造)
あけみ(名倉潤)
女(ベッキー)
田宮一郎(内村光良)
宮藤の母(南原清隆)
ナレーション(青木さやか)



○タイトル 『火曜 犬の劇場』
○映画『マトリックス』風の発光する文字(裏返しのカタカナ)が流れる
○タイトル 『マトリックス(笑)』

○ナレーションの声と同じ内容の文字が出ている画面

N この時間は宮藤官九郎脚本の連続ドラマ『マトリックス(笑)』をお送りする予定でしたが、今週も台本が間に合いませんでした。理由はだいたいこんな感じです。

 『(笑)』は『ふっふっふっ』と発音される。


○コーポ田宮・宮藤の部屋の窓の外

田宮(声) なに、タイトルに文句を言ってる奴がいる?


○宮藤の部屋

 テーブルで枝豆を食べている、田宮、ピンキー、阿部。
 三人の会話と並行して、画面下に以下のテロップが流れている。
 『前回のあらすじ…「笑う犬の情熱」のADアベちゃんがフジテレビから一度もギャラをもらったことのない宮藤官九郎のために、10分のドラマ枠をGET! コーポ田宮の人々も協力して脚本をつくることになったのですが…』

阿部 そうなんですよ。僕は『マトリックス』のほうがいいと思うんですけど。
田宮 うん。
阿部 なんでもね、そういうタイトルの映画があるらしいんですよ。
田宮・ピンキー へぇ〜。

 三人、枝豆を食べてはそのサヤを手前の床にぽいぽい捨てている。

ピンキー 邦画? 洋画?
阿部 Vシネじゃないですか?
田宮・ピンキー へぇ〜。
田宮 じゃあやっぱりタイトルはこうしよう。『コーポ田宮の大家は田宮一郎・ふっふっふっ』。
阿部 それ、いいですね。
田宮 うん。ところで、宮藤ちゃんどこ行ったんだろうね。
ピンキー 笑う犬の会議に行ってるらしいですよ。
田宮・阿部 へぇ〜。
田宮 阿部ちゃん、ここで枝豆食ってていいの。
阿部 いいのいいの。プロデューサーっていうのは、企画会議なんか出ないんですよ。
田宮・ピンキー へぇ〜。
阿部 こうやって、監督先生や主演俳優先生を接待するのが僕の仕事なんです。
ピンキー これが接待だったのかあ。どうりで美味しいや。ありがとう!
阿部 こちらこそ! それにね、こういう企画会議の席で、なんか新しい企画が生まれちゃう時もあるんですよ。
田宮・ピンキー へぇ〜。
阿部 あ、やばい。生まれた。言ってるそばから生まれちゃった。
ピンキー え、なに?
阿部 なんかね、こうやって、へぇ〜へぇ〜って言うの面白くないですか?
田宮 ああ。それ、毎回ハガキでネタ募集するっていうのはどうだい?
阿部 ああ、いいですね。
ピンキー あ、へぇ〜へぇ〜って鳴るボタン作ればいいんじゃない?
阿部 ああ、いい! それいい、新しい! それ当たりますよ絶対。ね、タイトルどうしましょう、タイトル。
田宮 タイトル。あっこれどうだい、『言ったそばからへぇへぇへぇ』。
阿部 さすが大家さん、いただきますそれ、いただきますよ!
宮藤(声) もう、ある。
田宮 ん?
ピンキー あ、おかえりなさい。

 ドアのほうを見る三人。宮藤が外出から戻ってきたところ。

宮藤 もう、やってる。そういう番組。
田宮 え、『言ったそばからへぇへぇへぇ』が?
宮藤 …そんなタイトルじゃないですけど。
阿部 ああ、僕ね、フジテレビしか見ない人なんですよ。
宮藤 フジテレビでやってんだよ!
阿部 え!?
ピンキー 阿部ちゃん、あんたほんとにフジのプロデューサーなの?
宮藤 ADだよ! つうか、あんたらどんだけ枝豆食えば気ぃすむんだよ?

 部屋の中、床に枝豆のサヤが山積みになっている。

阿部 (しれっと)パンがお気に召さなかったようなんで。
宮藤 いや、パンとか豆とかじゃなくてさ。お金ちょうだいよ。
阿部 ああ、そっちかぁ〜。

 楽しそうに笑いあう阿部、田宮、ピンキーの三人。
 ひとしきり笑ったのち、阿部、宮藤の側にいそいそと寄っていく。

阿部 はい、というわけで、あったまってきたところで、台本先生! 台本先生、ね、そろそろ台本書いてください。ね。
宮藤 ああ、それなんだけどさ。今、会議行ったら、そんな話聞いてないって言われたよ。
ピンキー え?
宮藤 って言うか、番組のタイトル自体変わってたよ。
阿部 (カメラ目線)え!?
宮藤 『笑う犬の太陽』になってたよ。
阿部 んんー、マジっすか!?
宮藤 なんでお前知らないんだよ!
田宮 と、いうことは…ミニドラマの話は、嘘だったんだね?(立ち上がる)
ピンキー (立ち上がり)きさまー、よくも嘘ついてくれたな! この野郎〜、くらえ! ピンキー…

 と、パンチをくらわそうとするピンキーに、阿部が先にビンタをくらわせる。
 倒れるピンキー。

田宮 ピンキー君!
阿部 じゃあ、こうしましょうよ!
宮藤 お前…怖いよ。
阿部 アッタマ来たんだよ! …てめえ、なんだ偉そうによ? おめーよ、TBSじゃADにも敬語使ってるらしいじゃねえかよ。俺にも敬語使えよ、この金喰い虫!
宮藤 (苦笑)
田宮 そうだそうだ! 『情熱大陸』のギャラはいくらだったんだ! 連ドラ一本いくらだ!
宮藤 (たじたじ)
田宮 『木更津キャッツアイ』でどのくらい儲ける気なんだ! 言いすぎだぞ、阿部ちゃん!
阿部 それは言いすぎました。…じゃあさ、こうしましょうよ。あんた、主題歌作ればいいじゃないっすか!

 と言って阿部、宮藤にギターを渡す。

宮藤 (受け取って)えー!?
田宮 そうだ、ドラマといったらやっぱり主題歌だ。
宮藤 いや、だって、台本まだ出来てないのに。
阿部 それは主題歌がないからでしょー。主題歌があれば書けるのでしょー。
ピンキー (立ち上がり)主題歌、賛成だ!
阿部 ピンキーさん、歌えばいいじゃないっすか。
ピンキー 俺?
田宮 君はミュージカルをやってたんだから、君が歌えばいい。
ピンキー (興奮してくる)…主題歌、決定だー!

 興奮して窓辺へ駆けていくピンキー。


○窓の外

 窓を開け、大声で歌いだすピンキー。

ピンキー わーかく、あかるい、うーたごえにー♪
あけみ イェイ!(合いの手)…やかましいわーアホ!

 物干し竿に、赤い下着姿のあけみがぶら下がっている。

あけみ なんでわたしがあんたにノらなあかんねんイェイ言うて! もう、何回言わせんねん。子供がもうお受験やねん。偏差値20やねん。偏差値が、20やねん。背水の陣やねん〜。
ピンキー すいません。でも僕、主題歌を歌うこと決定したんです。
あけみ 主題歌?
田宮 そうだよ、『コーポ田宮』の主題歌を作ることになってね。
あけみ なんでや、ウチも寄せてぇなほんなら。お隣りさんやないの。
田宮 ああ、おいで、あけみちゃん。
あけみ 寄せて。うん、じゃ、飛び込むから。いくよ。

 身体を振ってジャンブしようとするあけみ。が、壁の外側に落ちる。

あけみ あー!!
田宮 あけみちゃん?


○1階の廊下

 ピンク電話が鳴っている。宮藤の向かいの部屋の女、電話をとる。

女 ウェル? (笑顔で)ア〜、イェ〜イ。…イェ〜イ、イェ〜イ。…ホワット? (急に怒り)ダレガ、アンジェリーナ・ジョリーヤネン!

 階段から阿部が慌てて下りてきて、女から受話器をひったくる。

阿部 おいちょっと、ちょっと貸せ! 何やってんだよ!
女 ダレガヤネン!
阿部 (電話に)すいません、お電話かわりました。フジテレビの阿部ちゃんですー。
女 ダレガヤネン!
阿部 どうもどうもどうも、お世話になってますー。

 女、後ろから阿部にケリ入れる。

阿部 はい…いたい…あ、すいません。すいません、ちょっと、ちょっと待ってくださいね。

 阿部、電話を切って女に向き直る。

阿部 何してんだこのヤロウ!
女 ダレガヤネン!
阿部 邪魔すんなよ、仕事なんだよ!
女 アー?
阿部 お前…誰だぁお前は?

 阿部、女に頭突きをくらわす。倒れる女。
 阿部、急いで2階へととって返す。


○宮藤の部屋

 主題歌?を歌っているピンキー。宮藤がギターを弾いている。
 歌詞が進むにつれ、田宮、あけみも順に歌に加わっていく。部屋に戻った阿部も途中から参加する。

僕らの住んでるアパートは
 お金はないけど 夢はある

 敷金礼金ゼロだから
 酒を飲むのでしょう

 あけみさんは未亡人 (誰かもろて〜
 ピンキー君は食いしん坊 (ライス多めで!
 アベちゃんは猫顔でかわいい (ニャ〜
 そして〜コーポ田宮の
 大家さんの名前は〜
 大家さんの名前は〜
 田宮一郎(笑) SAY YES


 歌い終えて大盛り上がりする田宮、ピンキー、あけみ、阿部。でもどこかでグキッと音がしている。
 宮藤、隅で一人沈んでいる。

ピンキー やったー! やったー、これすごくいい歌だよね!
阿部 これ売れます、絶対売れますよこれ!
あけみ うちも、もらい泣きしてもうたわ。
田宮 私もねえ、あんまりびっくりしたんでね、たった今ぎっくり腰になりました。
あけみ あれ、宮藤ちゃんどうしたん。楽しそうやねえ。
宮藤 楽しくないよ! …俺、出てこなかったよ。
阿部 え?
宮藤 だって、俺だってコーポ田宮に住んでんのにさ…俺んとこ歌ってるパートがなかった。
ピンキー あ、忘れてた。
宮藤 なんで、なんで忘れんだよ?
田宮 それはね宮藤君、君の顔が薄いからだよ。
宮藤 お互い様じゃないですか。
田宮 あと、家賃を払わないからだよ。
阿部 宮藤さんってなんか、あれなんですね。
宮藤 なんだよ。
阿部 俺が、俺がの人なんですね。
宮藤 お前に言われたくねえよ!
母(声) やめなさい!

 と一喝する声がして、部屋の中の上の空間に、かっぽう着着た宮藤の郷里の母の顔がポワンと現れる。
 驚いてその空間を見つめる一同。(田宮はまだぎっくり腰)

田宮 あ。
宮藤 母ちゃん!
母 あんたが宮城から東京に行って、なんとかやってるのは、みなさんのおかげなんだよ。
宮藤 でも…
母 しゅんちゃん、人に感謝することを忘れちゃいけません! 俊一郎!
宮藤 …本名は、やめてよ。
母 いいかい、母ちゃんは、どんなに離れていても、いっつもあんたのことを想ってるんだよ。
宮藤 母ちゃん…
母 しゅんちゃん…
宮藤 母ちゃーん!

 と、部屋のドアが開いて宮藤の母が本当に現れる。

母 しゅんちゃーん!
宮藤 え!?
田宮・ピンキー・あけみ・阿部 お母さん!?

 母、かまわず部屋に入ってきて、買い物かごに持ってきたネギなどをせっせと配り始める。

母 まぁまぁまあ、いつもうちの息子がお世話になって。これ、うちの隣りの家の畑でとれたの。…あら! まぁ〜ちょっと、有名人ばっかりじゃないの。
宮藤 いやいやいや、そんなことない…
母 (阿部に)あら、V6の岡田くんでしょう?
阿部 (嬉しい)
宮藤 違いますよ!
母 (ピンキーに)あ、『ロケットボーイ』の、織田裕二さん。
ピンキー (嬉しい)はい!
母 (あけみに)あら、『池袋』の、加藤あいちゃん。
あけみ (嬉しい)
宮藤 こんな格好のわけないでしょ、加藤あいが!
母 (田宮に)ウッチャン?
田宮 (きょとん)
母 ね〜、いやいやいや、ほんとに、うちの息子の脚本のおかげで、みんなが本当に有名になって。街、歩けないでしょう。ねえ、歩けないでしょう。親戚増えたでしょう〜。
宮藤 ちょっと、やめてよ!

 単純に喜んでる阿部、ピンキー、あけみ。

阿部 あ、そうだ。さっき、お母さんから電話があって、そろそろ着くそうですよお母さん。
宮藤 もう着いてるよ! って言うかなんで母ちゃん来てんだよ?
母 それなんだよ。今度さ、うちのお風呂をさビフォーアフターしようとしたらさ、100万かかるって言われたからさ。あんた、全部払っておくれよ。ねえ。
宮藤 ないよ。だって、フジテレビがギャラくれないんだもん。(と阿部を指差す)
阿部 …ね、みなさん、どうですか。あの、親子で水入らずでつもる話もあるでしょうからね、ここは私達、あけみさんの部屋で飲み直しませんか。ね。
あけみ そうね。
ピンキー わあ、いいね〜。
阿部 行きましょ、行きましょ。退散です、退散。
宮藤 なんでだよ! ちょっと、待てよ!

 ピンキー、阿部、あけみ、連れ立って部屋を出ていく。追いかけて宮藤も出ていく。
 ぎっくり腰の田宮、這いつくばった姿勢のまま挨拶する。

田宮 あ、こんな体勢で申し訳ございません。わたくし、大家の田宮一郎です。

 宮藤の母、その田宮の前で三つ指ついて挨拶を返す。

母 宮藤官九郎の、母です。
田宮 あ、どうも。

 見つめあう2人。

母 あの、
田宮 はい。
母 わたしと、付きあってくれませんか?

 間。

田宮 (カメラ目線)無理です。ふっふっふっ。


○あけみの部屋の窓の外

 閉まっている窓。画面に『コーポ田宮の大家は田宮一郎(笑) つづく』の文字。

N というわけで、来週からいよいよ連続ドラマが始まります。

 ガラリと窓が開いて、下着にガウン姿のあけみが現れる。

あけみ (下の道路?に向かい)こら、しょうたろう、どこ行くんや! あんたお受験やろ! …お母さんが、飛べへん思うてるやろ。お母さんが飛べへん思うてるやろ! 待てー!

 ガウンの前をはだけつつ、下に向かって飛び落ちるあけみ。



(03.10.21 O.A.)