電気屋のメリークリスマス #1
店員 石田守(原田)
店員 遠藤修一(南原)
店員 金井雅史(名倉)
店員 斉木裕一郎(堀内)
女店員(遠藤)
店長 水野(内村)
○前回までのダイジェスト映像(モノクロ)
講師の水野が(石田をのぞく3人の)新人をどつき回しながらの研修風景。
遠藤(声) 立派な電気屋になるために2週間の厳しい研修を受けてきたぼくらは、一人の脱落者も出さずに卒業を迎えた。そして今日から、ドック電器・秦野中井店に配属されたのだった。
○店内
開店前のドッグ電器店内。赤いはっぴの胸にそれぞれ名札をつけた4人の新入社員がフロアの掃除をしている。
金井 なあ、この店さ、全支店の中でいちばん販売成績悪いんだろ。
斉木 そうなんだよ。もっとさ、池袋店とかさ、新宿店とかでやりたかったよな。
石田 そうだな。
遠藤 おいおい、俺たちは一体なんのためにあの厳しい研修に耐えてきたと思ってんだよ、え? 俺たちの力で、この店を一番にしようぜ!なあみんな!
元気いっぱいの遠藤の声に活気づく一同。
金井 そうだな。
遠藤 よーし、それじゃまずはサービスの基本!(と、講師の水野のマネをして)いらっしゃいませ!
他の3人 (笑いながら)いらっしゃいませ!
遠藤 いらっしゃいませ!
他の3人 いらっしゃいませ!
遠藤 なんてな。
楽しそうに笑いあう4人。と、どこからか水野の声。
水野(声) いらっしゃいませ、じゃない。
おや?と静かになる4人。
並べられている冷蔵庫の向こうからまず竹刀の先が、そして水野の顔が現れる。水野、冷蔵庫の上からフロアに飛び降りてくる。
水野 店長の、水野だ。
静まり返っている4人。水野、竹刀で床をバシンと叩く。
水野 全員整列!
4人、慌てて横一列に、斉木→金井→遠藤→石田といつもの順に並ぶ。
水野 今日付でここの店長になった。顔見知りだと思って、俺に色目を使うな。
水野、並んでいる4人の背後を威圧するようにゆっくり歩きながら、
水野 俺の使命は、人の形をした鼻クソであるお前らを、電気製品を売る最強の生命体に育て上げることだ。
と厳しい口調で言いながら、石田の隣りに歩み寄る水野。
顔を寄せて、
水野 石田…
石田 はい?
石田の横顔をものすごく見つめる水野。
音楽。
水野 …(ためいきが…とか言いかけたらしいが)
遠藤 (こっちのセリフがかぶって聞き取れず)よろしくお願いします、店長!
と声をかけた遠藤を、水野、振り向きざまギロリと睨みつける。
水野 紙やすり!
遠藤 (ちょっと意外)紙やすり…
水野 なぜ、お前はここにいる。
遠藤 配属されました。
水野、無言で4人の側を離れ、斉木の側にある商品のテレビの上を人差し指ですーっとなぞる。
指先についたホコリを見つめ、信じられないという顔になる。
水野、指を立てたまま斉木の隣りに寄る。
水野 フンコロガシ。これは何だ?
斉木 (びくつき)…ホコリです。
水野、斉木の口元をむぎゅと掴み、
水野 お客さまがこの世で一番嫌うのは、ホコリのついた電気製品と、自分をかわいいと思っている店員だ。お前はその両方だ!
斉木 ふぃまへん…
水野 なぜテレビにホコリがついたと思う。それは、商品に対する愛と、お客さまへの愛、その愛が足りないからだ。愛をみがけ!
斉木 ハイ…!
水野、続けて隣りの金井の後ろへ、ビデオカメラを手に寄る。
カメラを金井の顔に向けながら、
水野 ラクダコオロギ。おまえの顔は、ひどい!
店内中のすべてのテレビの画面に、金井の顔が映し出される。
水野 エラだ! お前のエラだ!
店内中のすべてのテレビの画面に、金井のエラが映し出される。
金井 …
水野 いいか、お前の顔は、お客さまに対して失礼だ。
金井 …はい。
水野 映し続けろ。
金井 はい。
水野、カメラを金井に渡して隣りの遠藤の後ろに寄る。
遠藤 (待ち構える顔)
水野 バレンシア・オレンジ!
遠藤 …(そう来たかと思いつつ、くじけない笑顔で)ぼくは、すべての商品とお客さまを愛し続けます!
水野 正解!
と言いながら水野、遠藤の頭をひっぱたく。笑顔で耐える遠藤。
水野、隣りの石田の後ろに寄り、
水野 石田…
石田 はい。
石田を見つめる水野の視線。
音楽。
水野、やおら石田の身体を押して、後ろにあったマッサージチェアに押し倒すように座らせ、スイッチを入れる。ブルブル振動するイスに座る石田の顔を見つめる水野。
水野 気持ちいいか…?
石田 はい?
水野 気持ちいいか…
石田 はい…?
水野 俺とお前の物語は、始まったばかりだ…
石田を見つめ続ける水野。
と、その後ろから遠藤の元気な声。
遠藤 店長、そろそろ開店の時間なんですけど。
水野 …石灰岩!
遠藤 せっ…(笑)はい。
水野 わかってる。 全員気をつけ! 右向け右!
水野の号令で、縦一列に並ぶ店員。石田も立って遠藤の後ろに並ぶ。
水野 開店前に、サービスの基本、挨拶からだ。腹から声出せ。いらっしゃいませ!
店員 いらっしゃいませ!
水野 声が小さい! みらっしゃいませ!
店員 みらっしゃいませ!
水野 (金井のカメラを持つ手が下がっていたので上げさせて)映せ!(店内のテレビに金井の顔が再び映る)きらっしゃいませ!
店員 きらっしゃいませ!
水野 きらっしゃいまそ!
店員 きらっしゃいまそ!
水野 けらっしゃいまそ!
店員 けらっしゃいまそ!
水野 いらっしゃいませ!
店員 いらっしゃいませ!
水野 きらっしゃいまそー!
水野、石田の腹に手を置いている。
音楽。
水野、石田の顔を間近でものすごく見つめながら、ほとんど恍惚の表情になっている。
喜びにむせび泣くように、
水野 うれしい…!
石田 はい?
女店員(声) ごめーん、遅れちゃったー!
と、元気な声がして、ピンクのはっぴを着た若い女店員がフロアに駆け込んでくる。
足音が聞こえると同時に水野はさっと石田から離れる。
女店員、並んでいる4人を見て、
女店員 あー。みんなが、今日入ってきた新人さんだ。
女店員、石田の顔を見て嬉しそうな顔になる。
女店員 あー、かっこいいじゃん。超好み…(名札を見て)あ、石田君っていうの。
石田 あ、はい。
女店員 よろしくね!(握手しようと手を出す)
石田 (少し戸惑いながら)あ…よろしくお願いします。
石田と女店員、握手する。
それを見るなり、水野、女店員にいきなり掴みかかり頭にかじりつく。
女店員 いたたたたっ! ちょっ、な、何すんの!? あんた誰!?
水野 店長の水野だ! なぜ女がここにいる、電気屋に女は入るな!
女店員 …ひっどーい!
水野 (男達に)全員、持ち場につけ! 開店だ!
水野の号令で、慌てて店内へと散っていく男店員。
一歩遅れてまごついている石田に、女店員が素早く腕をからませる。
女店員 行こ、石田君♪
石田 はい。
女店員、水野のほうをフンって目で睨み、石田を連れて去っていく。
一人とり残されてむなしい水野。
と、遠藤が元気に戻ってくる。
遠藤 店長、新しい加湿器はどこに置けば…
水野 泥団子!
遠藤 ど…(笑)
水野 俺のセリフを一個飛ばさせたな!(と本気のダメ出ししつつ首しめる)
遠藤 …すみません(と素で謝りつつビビり笑い)
水野 もう一度台本を読み直せ〜!
と水野が遠藤の首しめながら押し戻して二人去る。
(03.10.14
O.A.)