大東京物語 〜上京〜
男(内村)
隣の女(遠藤)
隣の男(原田)
○都会の街並〜走る新幹線のイメージ映像
男(声) 生まれ育ったふるさとを離れ、ついに憧れの町、大東京にやって来た。
○アパートの前
赤いスタジャンにマジソンバッグを持った若い男、嬉しそうに部屋の前にやって来る。
男(声) 今日からここで、俺の新しい人生がスタートする。
男、カギを手に部屋の前に立ち、ドアを開けようとする。と、隣の部屋のドアが開き、長い髪の美女が現れる。
男 あ…
女 あ…(男を見てにっこり微笑む)
男 (嬉しそうに)あ、あの、はじめまして。あの、僕あの、今日からあの、隣に越して来ました。あの、う…
と挨拶していると、女の部屋のドアがまた開き、Tシャツにジャージ姿の男が出てきて、情けない様子で女にすがりつく。
隣の男 お願い、千円でいいから。千円で、倍にして返すから!
女、その男に恐ろしい声で怒鳴りつける。
女 外に出てくんなっつったろうがぁ!
女、男を平手打ち。男、悲鳴をあげつつなおも女にすがりつく。
若い男、あ然としてそれを後ろで見ている。
隣の男 お願い、お願い…
女 うるせえんだよ!働きもしねえ奴はよ、部屋ん中にじっとしてろっつうんだろ!
女、男を部屋の中に叩き込み、乱暴にドアを閉める。
女 だぁーこらぁ!(威嚇)
ドアを閉めて振り返った女、若い男を見ると、にっこり笑って何事もなかったように出かけていく。
若い男、黙ってそれを見送る。
男(声) 東京に着いて、38分たった時だった。
男、やおら携帯電話を取り出してかけ始める。
男 あ、お母さん? うん。あした帰るけん。
男、そのまま電話しながらそこを去る。
男 うん、やっぱりミュージシャンには向いとらんって思うとよ。うん。うん、夢は、夢でよかと。
(03.5.11
O.A.)