※これは某番組のコントをもとに個人が勝手に創作したフィクションです。

大東京物語 〜思ひ出〜


出演/若い男 (Uさんのイメージで)
会社員風の男 (Hさんのイメージで)


○走る新幹線のイメージ映像〜前回のダイジェスト映像〜渋谷の雑踏のイメージ映像

若い男(独白) 憧れの地、東京に来てわずか38分で違和感を感じた僕は、やっぱり田舎に帰ることにした。でもせめて、なにか思い出だけでも作ろうと、渋谷に寄って帰ることにした。

○渋谷の路上(ホテル街)

 赤いジャンパーにマジソンバッグを持った若い男、ガイドブックを見ながら歩いている。

若い男 えっと、こう行って、ああ行って…あれ〜? ちょっと、渋谷はわかりづらいなぁ〜。

 と迷っている男の横を、三つ揃いの背広に銀縁メガネの会社員風の男が通りがかる。若い男、その男を呼び止めて尋ねる。

若い男 あ、あの、すいません。
会社員 はい?
若い男 あの、ちょっとお尋ねしたいんですけど。
会社員 なんですか。
若い男 (ガイドブックを見せながら)あの、109っていうのはあの、どこにあるんですか。
会社員 ああ、109ね。(道を指差して)109だったら、この坂を下っていったらありますよ。
若い男 あ、そうですか。ありがとうございます。
会社員 失礼。あなた、もしかすると上京したばっかり?
若い男 あ、はい。でもなんかこう、東京、なんか違うなーって思って、田舎に帰ろうかなって。
会社員 おーや、それはもったいないねえ。だってさ、東京はいいところですよ。
若い男 はあ。
会社員 だって、東京には楽しいことがたくさんあるよ。君の知らない楽しいことがたくさん。
若い男 はあ…でも、僕にはやっぱり、東京は合わないみたいだから…僕には、無理です。
会社員 そんなことないよ。(若い男の全身を品定めするように眺めながら)君ならきっと、この東京で素敵な体験をいろいろできると思うよ。そう、例えば…
若い男 例えば?
会社員 そうだなあ、立ち話もなんだから、どこか静かなところにでも入ろうか。あ、ちょうどいい、ここにしよう。この中で、教えてあげるよ。
若い男 はい?

 会社員、若い男の背を押すようにして、すぐ横にあるラブホテルの入り口へとうながす。連れ立って入っていく二人の後ろ姿、扉の中に消える。

若い男(声) あ、いいです、そんな、わざわざ教えてくれなくても…あの…あの、ここ、なんのお店ですか?

○暗転

若い男(声) あ゛ーーーーーっ!!

○ラブホテルの部屋

 明るい室内、ついたての向こうにベッドの端が少し見える。二人の姿は見えない。若い男のジャンパーと会社員の背広の上着が、ついたての端にひっかけてある。

若い男(声) ちょ、ちょっと、あのっ…あっ! あーっ!

 ぎっしぎっしとベッドが揺れる音がしている。のけぞっているらしい若い男の黒い頭が、ついたての向こうに時々ちらちら見える。

若い男(声) なっ、なに、これ…いっ…いっ! いたあっ!
会社員(声) 最初は痛いかもしれないけど、すぐ気持ち良くなるからね。
若い男(声) きっ、きもっ…あ…あ、いい…
会社員(声) どう? 田舎には、こんなことしてくれる人いないでしょ。
若い男(声) うっ、うん…ああん…も、もっと…
会社員(声) もっと? しょうがないなあ。それじゃ、こっちもいいね?
若い男(声) うんっ…ああーっ! い、いい…きもちいい…!

 床に落ちている、若い男のものらしい白い靴下。
 カメラ移動すると、ベッドに横たわる若い男と、その側の床で男の足をマッサージしている会社員の姿が見える。もちろん二人とも服は着ている。

会社員 ああ、やっぱり僕の思ったとおりだった。ひと目見てすぐに、君はこれとすごく合うお客さんだってわかったんだよね。

 会社員、自分のカバンを開けて、中から「出張クイック足ツボマッサージの○○ ただいま無料お試し体験キャンペーン中!」と書いてあるチラシを取り出し、ベッドでぐったりしている男に手渡す。

若い男 はあ…そ、そうだったんですか…
会社員 不健康な人はね、痛いばっかりで終わっちゃうことが多いんだけどね。でも君はすごく健康そうだなって思ったから、いきなりで悪かったけどちょっと試させてもらったんだよ。ごめんね、びっくりさせて。
若い男 いやあ、そんな。どうも、ありがとうございました。すごく気持ち良かったです。
会社員 あ、ほんと?
若い男 ええ、おかげさまで、長旅の疲れもみんなふっ飛びました。やっぱり、東京はなんでもレベルが高いんですね。
会社員 うれしいこと言ってくれるなあ。僕もがんばった甲斐があるってもんだね。

 会社員、にこにこ笑いながら床の靴下を男に渡してやる。男、笑顔で会釈してそれを履き、立ち上がってついたてにひっかけたジャンパーを取る。

若い男 親切にしていただいて、どうも本当にありがとうございました。それじゃ、失礼します。
会社員 おっとっと。それで帰ってもらっちゃ困るなあ。
若い男 え?
会社員 サービスしてあげたんだから、それ相応のものは払ってもらわなくちゃ。
若い男 サービス…? って、あの、でも、無料体験って…
会社員 おやおや。さっき渡したの、よく見てよね。

 男、あわててポケットをごそごそやり、さっきのチラシを見る。チラシの下のほうに小さな文字で『料金表 片足千円(体験無料) 両足3万円 全身10万円』と書いてある。会社員、上着を着ながら男のその様子を見て不敵に笑う。

若い男 えっ、これって…ええ〜!?
会社員 片足だけなら無料だったんだけどね〜、君、もっとって言ったでしょう。だから、両足ぶんの規定料金を払ってもらわなきゃならないんだよね。悪いね、これ、決まりなんで。
若い男 で、でも、僕はそんなつもりじゃ…両足にしてくれなんて、言ってないし…
会社員 こっちもいい?って聞いたら、うんって言ったじゃないの。
若い男 ! そ、そんなぁ…
会社員 だめだよ、気持ちいい思いしたんだから、ちゃんと払わないと。僕も困るんだよね、こういうこときちっとしとかないと、上がうるさいもんだからさ。
若い男 う、上ですか…でも、僕、お金、今はこれだけしか…

 男、財布を取り出してみせる。会社員、こともなげに笑って、

会社員 大丈夫だよ〜、足りなかったら借りてきて払ってくれればいいから。
若い男 借りるっていっても…僕、東京に着いたばかりで、お金を貸してくれる知り合いなんていませんから…
会社員 あ、そっか。じゃあ、貸してくれる人のところに行こうか。
若い男 …そんな人、いるんですか?
会社員 無人契約機って知ってる? ちょうどこの近くにあるから、連れてってあげるよ。お自動さんっていうんだけどね、見たことないかな。これも、東京のいいところだから見ておくといいよ。さ、行こう行こう。

 会社員、にっこにこ笑いながら、男の背を押して部屋を出て行く。
 二人のいなくなった部屋、男の声が聞こえる。

若い男(独白)東京に着いて、1時間16分しかたっていなかった。
若い男 お地蔵さんなら、見たことあります…。



(03.07.10 UP)

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