研修のメリークリスマス #2


社員1(原田)
社員2(南原)
社員3(名倉)
社員4(堀内)
講師(内村)



○『宿泊室』の表示


○宿泊室の中

 壁際に2段×2列にベッドが作りつけてある。出入り口側になる右上段のベッドに、Tシャツ姿の社員2が座り、身の回りの整理などをしている。

2(声) 電器屋に就職したぼくは、新人研修セミナーできびしい訓練をうけていた。でもぼくは絶対負けない。必ず、立派な電器屋になってみせる。
2 よし、と。…よし、じゃ、プラズマテレビの取説でも見てるか。…えーっと、プラズマテレビは…

 社員2、寝転がって冊子を読み始める。
 部屋のドアが開き、それぞれTシャツにタオルをひっかけた姿の社員4・3・1が入ってくる。社員2、起き上がって迎える。

4 いや〜、初日きつかったね〜。
3 ああ、ほんとだな。
2 みんな、お疲れさま。
4・1 お疲れ。
3 お疲れ。…遠藤君、大丈夫? 講師にすげえ殴られてたじゃん。
2 ああ。あん時はさ、確かに脳の奥がつーんとしたんだけど、今はぜんぜん平気。俺さ、きびしくやられたら逆に燃え上がるタイプなんだよね。俺のこと、相当気にかけてくれてると思うんだ。がんばるよ!

 と、笑顔で語る社員2。他の3人も笑顔になる。

4 でもさ、石田君、あの鬼講師にさ、好かれてるみたいだよね。
3 ああ。
1 あ…そんなことないと思うよ?
2 まあ、とにかく、あとは本人のやる気だよ。
1 そうだね。
2 寝ようぜ。

 社員たち、うなづき合いながらそれぞれのベッドに向かう。社員2の下に社員1、左の列に3と4。
 あ〜疲れた〜おやすみ、とか言いながら全員が床につきかけると、部屋のドアが開き、鬼講師が竹刀を手に入ってくる。竹刀で床を叩く音にびくっとする社員たち。

講師 講師の、水野だ。(腕時計を見て)消灯時間を18秒すぎている。…19、20、21…講師の、水野だ。

 身構えている社員たち。

講師 俺がこの世で一番許せないのは、消灯時間を守らないことだ。…全員、荷物を持って並べ!
社員 はい!

 社員たち、慌ててバッグを手にベッドから出てくる。バッグを足元に置いて整列する4人。
 講師、左端の社員4の耳元に近づき、

講師 …フンコロガシ!

 講師、社員4のバッグを探り、中からマンガの単行本(池上遼一『HEAT』)を取り出す。

講師 (本をパラパラめくり)これは何だ。
4 ひ、ひ…HEATです。
講師 (社員4の顎をむんずと掴み)どの口が言っている? もう一度聞く。この物体は何だ?
4 …マ、マンガです。
講師 誰が持ってきた。魔法使いか? このセリフの部分、読んでみろ。
4 (脅えているのと口元を掴まれているので喋れない)
講師 口ごたえするな、読んでみろ!
4 …人間…二百年は…生きられないっすよぉ…!
講師 (手を離し)どうだ、言いにくいだろ。
4 (放心)
講師 マンガは全部没収だ!
4 はい…。

 講師、マンガを床に捨て、隣りの社員3の側に行き、耳元で、

講師 ラクダコオロギ!

 講師、社員3のバッグを探り、定期入れを取り出す。

講師 (定期入れの裏を社員3に見せながら)この写真は何だ。
3 (引きつる)…彼女です。
講師 種類は、メスカナブンか?
3 違います。
講師 電灯にぶち当たってそっくり返ってるメスカナブンか。
3 違います。
講師 あしたの朝一番に電話をして、別れを告げろ。
3 
講師 なに気分だ!

 講師、定期入れを床に捨てる。

2 自分は、立派な電器屋になるまで、絶対にオン…

 張り切って言いかける社員2の頭を、講師、ひっぱたく。

2 (耐えてる)…オンナは作らな…

 くじけずに言いかける社員2の頭を、講師、ひっぱたく。

講師 デコボコ!
2 
講師 お前を叩くたびに、腐ってゆく、この手が!
2 
講師 お前は、あしたから“おかき”だ。
2 …!?
講師 出来そこないの、おかきだ。
2 (頷いてる)

 講師、並んでいる4人の背後を歩きながら、

講師 いいか、お前らは、電器戦争の最前線に飛び立つまでは、恋人など必要ない。もしもそれまでに恋人が欲しいなら、俺を恋人だと思え。わかったな!

 講師、右端の社員1の横に立つ。
 社員1を見つめる講師の熱い視線。
 音楽。

講師 …お前、彼女は?
1 いません。
講師 

 講師、足元の社員1のバッグを探り、ワイシャツを取り出す。

講師 これは何だ?
1 さっき脱いだシャツです。
講師 …!!(さっき、ぬいだ、シャツ!?の形に口だけが動いてる)…没収だ!
1 え?
講師 (社員1のシャツを丸めて片手に持ち)全員、右向け右!

 社員4人、号令に従い縦列に並ぶ。

講師 寝る前にもう一度、サービスの基本、挨拶だ。腹から声出せ。いらっしゃいませ!

 講師、復唱させながら列の横を先頭から後ろへと進む。

社員 いらっしゃいませ!
講師 …いらっしゃいませじゃない。みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 腹から声出せ! みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 みらっしゃいませ!
社員 みらっしゃいませ!
講師 声出せ、腹から声出せ! みらっしゃいませ!

 講師、後ろの社員1の横で、社員1の腹に手を置いている。
 音楽。

講師 …溶けそうだ…
1 はい?
講師 デコボコがぁ〜!

 講師、前にいる社員2の後頭部をひっぱたく。

講師 おかきが! …早く寝ろ! 右から駆け足!

 社員4人、バッグを手に大急ぎにそれぞれのベッドに入り、カーテンを閉める。
 講師、竹刀を手にドアに向かいながら、

講師 横になったら5秒で寝ろ。 寝息はいっさい立てるな!

 講師、ドアのところで振り向き、もう一度室内を見渡して、

講師 寝たか?

 講師、右下のベッドのところに屈みこみ、カーテンをすすっと開ける。
 横たわる社員1、目を閉じている。

講師 寝たか…?

 講師、社員1にゆっくりと顔を近づける。
 音楽。
 唇が触れるかと思われたその時、上から陽気な声。

2 すみません、トイレに行ってきてもいいですか?

 社員2、自分のベッドのカーテンを開けて顔を出している。
 慌てて立ち上がる講師。

2 あれ? 何やって…

 講師、社員2のシャツの襟を掴み、

講師 一生、トイレには行くな。
2 …はい。
講師 したけりゃそこでしろ!
2 はい。

 講師、社員2のところのカーテンを乱暴に閉め、部屋を出ていく。

講師 明朝3時、グラウンド集合!


○外の廊下

 出てきた講師、持っていた社員1のシャツを顔に当て、深呼吸。

講師 んーーー…

 画面手前へと去りながら、

講師 ぐーっど・すめる!



(03.9.21 O.A.)