研修のメリークリスマス


社員1(原田)
社員2(南原)
社員3(名倉)
社員4(堀内)
講師(内村)



○『研修室』の表示


○研修室の中

 「ドッグ電器」の赤いはっぴに「研修生」の腕章をつけた若い男が4人、画面右から1〜4の順に横並びに座っている。

1 知ってる? この会社の新人研修って、相当きびしいらしいよ。
3 俺も聞いた。とにかく、すげえ鬼講師がいるらしいんだよ。
4 そうそう。毎年この研修で何人も辞めてくんだってよ。
2 でもそれは、本人の気持ち次第だろ。俺は絶対やめないよ。俺は、どんなことも耐えてみせる。

 社員2、自信ありげに笑顔をみせる。
 と、後ろのドアが開き、同じ赤いはっぴに胸元に勲章をジャラジャラつけた男が入ってくる。顔は見えない。さっと緊張する社員たち。入ってきた男、ゆっくりと社員の前に回り、持っていたバインダーを教卓の上にバンと置く。大きな音にびくっとする社員たち。

講師 (怖そうな声)講師の、水野だ。

 講師、教卓に立って社員たちを睨みつけているらしい。静まり返っている社員たち。

講師 俺の使命は、役立たずの貴様らを立派な電器屋に育て上げることだ。

 講師、言い終えるとゆっくりと社員たちのほうに歩み寄る。左端の社員4の隣りに立ち、威嚇するかのようにすぐ側に顔を寄せる。講師のいかめしい顔が社員4の顔と並ぶ。

講師 名前は。
4 (愛想笑いしながら)斉木です。
講師 ニヤニヤすんな、フンコロガシが!
4 (蒼白)
講師 (社員4の顔をわしづかみながら)その顔は、女に見せる時の顔だ。俺に色目を使ってるのか?
4 (震えつつ)がんばります…
講師 声が小さい!
4 が、がんばります…
講師 声が小さい!
4 がんばりましゅ!
講師 よし!

 講師、続いて隣りの社員3の横に行く。身構える社員3。

講師 名前は。
3 (精一杯の大きな声で)金井…
講師 (その声を封じるように)わかってる! 講師の、水野だ。
3 
講師 お前は今日から、ラクダコオロギだ。お前の顔はひどい。吐き気がする。現代美術の醜さだ!
3 

 講師、隣りの社員2の横に行く。社員2、自分はうまくやれるぞと言いたげな自信顔。

講師 (何も言わずいきなり、社員2の頭を横からひっぱたく)
2 …!?(びっくり)
講師 (社員2を睨みつけ、何が気に入らないのか舌打ち)

 講師、社員たちの背後をゆっくりと歩きながら、

講師 いいか、今日から貴様らは、販売兵器となってゆく。しかし、それまで貴様らはこの地球上で最も下等な生命体だ。鼻クソを集めた価値にしかすぎない。わかったか!

 講師、左から右へと歩きながらの演説を終え、最後に右端の社員1の隣りに立つ。
 社員1の顔の横に顔を寄せた途端、講師、固まる。
 社員1の横顔をものすごく見つめる講師の視線。
 「戦場のメリークリスマス」の音楽(Merry Christmas Mr.Lawrence)が流れる。

講師 …名前は。
1 石田です。

 講師、机に置いた社員1の手の上に自分の手を重ねながら、

講師 …いいか、貴様は、きびしい俺を嫌う。しかし、憎めば憎むほど、学んでゆく。そしていつしか、感謝する。…わかったか。
1 はい。

 講師、社員1を穴があくほど見つめている。
 と横から社員2、やる気いっぱいの明るい声で、

2 ビシビシ教育してください。ぼくはどんなシゴキにも耐えてみせま…
講師 デコボコがぁ〜!

 その声を聞くなり、講師、社員2の頭をひっぱたく。

講師 (社員2の顔面をピタピタ叩きながら)このデコボコ顔が! クレーター野郎! (頬を指でぐりぐり押し)月面着陸!

 講師、再び社員たちの背後に立ち、視線は社員1のみに向けつつ、

講師 よし、それじゃまずは、サービスの基本、挨拶からだ。全員立て!

 社員、号令に従い一斉に立つ。

講師 右向け右!

 社員、一斉に右を向く。社員4を先頭に縦一列に並ぶ形。

講師 腹から声出せ。いらっしゃいませ!
社員 (復唱)いらっしゃいませ!

 講師、列の傍らを前から後ろへ、歩きながら順に社員を睨みつける。

講師 いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!
講師 いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!
講師 腹から声出せ! いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!
講師 いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!
講師 いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!
講師 腹から声出せ! いらっしゃいませ!
社員 いらっしゃいませ!

 講師、1番後ろの社員1の横に立ち、社員1の腹に自分の手を置いている。
 音楽。
 講師、社員1の顔をものすごく見つめ、

講師 …吸い込まれそうだ…
1 はい?
講師 デコボコ、喋んなぁ!

 講師、社員2の頭をいきなり後ろからひっぱたく。
 社員2、頭を押え、なんにも喋ってないのに〜とびっくり。

講師 全員、グラウンド出ろ! ランニングだ!
社員 はい!

 社員たち、返事とともに、1、2、と声を出しながら外の廊下へと走りだしていく。
 出口に立つ講師、一番後ろを走る社員1を呼び止める。

講師 石田!
1 はい?

 立ち止まった社員2を、顔をピクピクさせながら見つめる講師。
 音楽。

講師 (ゴクリと唾を飲み込み)…なんでもない。
1 はい。

 社員2、どうかしたんですか?とか言いながら陽気に戻ってくる。
 講師、その社員2につかみかかる。

講師 デコボコがぁ〜! カニ野郎〜!

 3人、廊下の外に去る。






(03.8.17 O.A.)