張り込み
realism
男の刑事(内村)
女の刑事(ベッキー)
通行人(名倉)
通行人(遠藤)
通行人(堀内)
容疑者(原田)
○裏路地・夜
アパートの裏手にある片隅で、2人の刑事、身を隠す感じでアパートの2階を見つめている。
上司らしい野暮ったい背広の男刑事と、きりっとしたスーツ姿の若い女刑事。
男 吉岡君、張り込みは初めてだったか。
女 はい。
男 今夜は持久戦だ。しっかり頼むぞ。
女 はい。
男 あ、人だ…(女刑事のほうにいきなり振り返り)君が好きだ!
2人のいる場所の横の路を、サラリーマン風の男が通りがかる。(男刑事のセリフを聞いてそっちを見るが、特に気にする風でもなくそのまま歩き去っていく。)
女 え…(驚き)
男 頼む、僕と付き合ってくれ!
女 ええ? え、ちょっ…どうしちゃったんですか?
男 (男が通り過ぎたのを確認して)吉岡君、芝居してくれないと困るな。
女 芝居?
男 じゃないと、通行人に怪しまれるぞ。
女 ああ、なるほど。さすがですね。
男 いやあ、まあ、場数かな。
女 ああ。(納得)
男 男と女だし、告白、っていう設定で。
女 あ、はい。わかりました。(敬礼する)
男 (敬礼する)あ、人が来た。
携帯電話を持ったOL風の女が通りがかる。(電話の画面を見ながら、そのまま歩き去っていく。)
男 君が好きだ。付き合ってくれ。
女 (即答)イヤ。絶対にイヤ。
男 …?
女 あんたと付き合うなんて死んでもイヤ。大体ね、あんたごときがあたしに告白するっていうこと自体失礼なのよ。二度とそのツラ見せないで。ったく、何考えてるの。(と、キレ気味でましくたてる)
男 も、もう行ったよ。
女 (何事もなかったように)あ、ほんとですね。
男 …芝居だよね?
女 ええ、もちろん芝居です。…あ、人が。
ラフな服装の若い男が通りがかり、2人のいる横で立ち止まってタバコを取り出す。(2人の会話が耳に入るが、タバコに火をつけ終わると歩き去っていく。)
男 あ…き、君が…
女 大っ嫌い、あんたなんてほんと大っ嫌い!理由その1、その格好。一緒にいるこっちが恥ずかしいよ。理由その2、口が臭いから。あ~鼻がひん曲がりそう。理由その3、おっさんのくせに色白だからキモチ悪い。こっち見ないでよ。大体ね、あたしだけじゃないの。署の女の子、全員あんたのこと嫌いなんだからね。ほんとキモチ悪い、こっち見ないでよ。キモチ悪いよ、ったくもう!
男 …もういない、もう、いないよ。だーれもいない。
女 あ、ほんとですね。
男 …。
男刑事、黙ってアパートのほうを見る。遠くで犬の鳴き声など。
間。
男刑事、ふと後ろの女刑事のほうに振り向いて、
男 芝居だよね。
女 芝居です。
男 …。
男刑事、アパートのほうを見る。
間。
男刑事、再び振り向いて、
男 ほんとに芝居…
女 だから芝居だっつってんだろ、しつこいな!そういうウジウジしたとこが嫌いなんだよほんとに!
男 ちょっと、あんまり騒がない、騒がないで…
女 触ろうとするんじゃねえよ、この野郎!
慌てて思わず女刑事のほうに手を伸ばした男刑事を、女刑事、平手打ち。
男刑事、ふっ飛ぶ。
男 あいてっ!
女 キモチ悪い…あ!
アパートの階段を、黒Tシャツにサングラスの男が下りてくるのを女刑事が見つける。
走って逃げ出したその男を、勇ましく追いかけてゆく女刑事。
女 よーし、行くぞ!
うずくまっていた男刑事、起き上がり、手錠を振り振りあとを追いかけてゆく。
男 待てぇ~い!
(03.8.3
O.A.)