受験の朝 〜幸運と不運の関係〜
息子(内村)
父(原田)
母(ベッキー)
弟(名倉)
おじいちゃん(堀内)
○家庭の食卓・朝
朝食をとる父、母、息子。息子は高校の制服らしいブレザー姿、父は背広。
息子、母からお茶を受け取って、
息子 「あ、見て、茶柱立ってる」
母 「すごーい、やったわヒロシちゃん! 今日、絶対いけるわよ」
息子 「うん!」
父 「…やべえな」
息子 「え?」
母 「え?」
父 「ヒロシ。お前、今日ツイてねえよ」
息子 「ちょっと父さん、そんなこと言わないでよ」
母 「そうよ、縁起でもない」
父 「いいか、人間の運の量っていうのは、あらかじめ最初から決まってるんだ。それをお前は、受験当日の大切な日に、茶柱ごときで使いやがって! 今日のヒロシにはもう運、残ってねえよ」
息子 「そんなあ…」
へこむ息子。と、その息子の後ろの窓ガラスを割って、サッカーボールが飛び込んできて、息子の後頭部を直撃。
息子 「うわっ!?」
母 「ヒロシちゃん!?」
父 「ヒロシ!?」
息子 「いってえー!」
割れた窓の外から、弟が中を覗いて、
弟 「ゴメン兄ちゃん、またシュート練習ミスっちゃった!」
父 「…でかした、ユウジ!」
息子 「え?」
父 「おい、これでプラマイ・ゼロになったよ」
母 「…よかった! ユウジ、もっと謝らなきゃいけないことないの?」
弟 「(室内に入ってきて)うん。ゴメン兄ちゃん、兄ちゃんのバイク盗まれちゃった」
息子 「えっ!?」
父 「でかしたユウジ! 今ので不運が一歩リードしたよ。なんかいいこと起きるぞ!」
母 「やったわ!」
父 「いけいけユウジ、もっといけ」
弟 「うん。ゴメン兄ちゃん、兄ちゃんの彼女とエッチしちゃった」
息子 「ええっ!?」
父 「(弟に)バカヤロウ!(息子に)俺もした」
息子 「えええっ!?」
おじいちゃん 「(いきなり登場して)ちなみにワシもしたぞ。2回!」
息子 「えええーっ!?」
母 「最悪の不運だわ。これで合格間違いなし! ばんざーい!」
父 「ばんざーい!ばんざーい!」
おじいちゃん 「ばんざーい!ばんざーい!」
弟 「なんだかわかんないけど、合格ならいっか! ばんざーい!」
息子 「……」
父 「よし、ヒロシの受験合格を祝して、みんなでメシを食べよう」
母 「いただきまーす」
弟とおじいちゃんも席につき、父と母と4人楽しげに朝食をはじめる。
息子、ひとり浮かない顔をしながらも、生卵を割る。と、
息子 「あ、黄身、ふたつだ」
父 「…なにやってんだお前は」
母 「台無しじゃない」
弟 「空気読めよ」
おじいちゃん 「お前、下手したら今日死ぬぞ」
息子 「え…俺、俺が…悪いの…?」
沈黙。
息子、よろよろと立ち上がり、
息子 「…じゃ、行ってきます…」
生気のない顔で出かけていく息子。それを見送って父、
父 「…母さん。あいつ何浪だ」
母 「五浪です」
父 「もう、運とか不運とかそういう問題じゃねえな、こりゃ…
…よし、私は会社の面接に行ってきます」
父、出かけていく。それを見送って母、
母 「今年こそ働いてください」
父(声) 「ガンバります」
(2002.2.3
O.A.)