ピッチングコーチと打撃コーチ
ピッチングコーチ(名倉)
打撃コーチ
(原田)
選手 (内村)
監督 (堀内)
○プロ野球チームの練習場
ピッチングコーチの指導のもと、若い選手が投球練習をしている。
ピ 「バネを使って、バネを。そう」
とかなんとか言いながら練習させているところに、打撃コーチが来る。
打 「やってます?」
ピ 「あ、どうも」
打 「マツキヨ君、ちょっと」
選手 「なんすか」
打 「マツキヨ君、聞いた話によるとさ、君、高校でエースで4番打ってたんだって?」
選手 「あ、そうっス」
打 「(バットを差し出し)振ってみな」
ピ 「ちょっと! まさか、彼を打者に転向させるつもりじゃ」
打 「その通りですよ」
ピ 「だめですよ、困りますよ。彼は今年の押えの切り札としてね」
打 「あなたね、押えの切り札だったら他にもゴロゴロいるでしょ」
ピ 「それは監督の判断ですか」
打 「今はね、打者の強化を先決するのが先です」
ピ 「それは、監督の判断ですかって」
打 「(選手に)ほい、振ってみな」
ピ 「ちょっと!」
選手 「自分、ぶっちゃけ、どっちでもいいんスけど」
ピ 「どっちでも、って…」
選手 「でもなんか、大の大人がオレを奪い合ってるーみたいな感じで、まんざらでもねえっス」
ピ 「あのねマツキヨ君、これは大きな問題だよ。もし転向したら、二度とマウンドに立てないんだよ」
選手 「え、マジで? それ超ブルーじゃん」
打 「マツキヨ君、よく考えてみな。君、今のままピッチャーやってたら、一生ホームラン打てないぞ」
選手 「え、一生? ホームラン、オレ好きだもんなー」
ピ 「いや、練習すれば打てるよ。それに、投手は、登板しない日は休みなんだから」
選手 「休めんのか?」
ピ 「ああ、週休4日だよ」
選手 「バイトできんじゃん、サイゼリヤでバイトできんじゃん! オレ絶対ピッチャー」
打 「マツキヨ君、いいかい、こっちのほうが時給いいよ。ひと打席15万だぞ」
選手 「おいしいじゃん! オレ絶対打者やるっス」
ピ 「おい、お前オンナ好きか?」
選手 「好きっス」
打 「なに言ってんだお前!」
ピ 「黙ってろ!(選手に)リリーフカー乗ってる間、マスコットガールナンパし放題だよ」
選手 「手当たり次第っスか!」
ピ 「きみ次第で持ち帰りもOKだよ」
選手 「やったあー!」
打 「マツキヨ君、よく聞け。こうしよう、毎晩、焼肉を食わせてやるよ」
ピ 「おい、そんなことで彼が動くわけ…」
選手 「(お腹がグゥ〜と鳴る)」
ピ 「…鳴っちゃった、ホントかよ」
選手 「デザートは?」
打 「パンナコッタ!」
選手 「食いてぇ〜!」
ピ 「ちょっと待て、こっち向け! オレは、毎日クリスマスプレゼントをあげるよ!」
選手 「毎日かよ! 毎日クリスマスっスか?」
打 「こっちはな、朝と晩、お年玉をあげるぞ!」
選手 「うわ〜、オレ、なんかタってきたな〜、うお〜(興奮)」
ピ 「…ちょっと待て。これじゃあらちがあかないから、やっぱり監督の判断あおがないと」
打 「いや、監督はまずいよ…」
と、監督がマウンテンバイクに乗ってついーと登場。
監督 「どうした」
選手 「あー監督、俺、ぶっちゃけ、バッターとピッチャーどっちがいいっスか」
監督 「役者になれ」
選手 「え?」
監督 「そっちのほうが向いてんぞ。Vシネとか出れっぞ、Vシネ」
間。
監督 「よし、オレ、おでん食い行ってくっから」
監督、マウンテンバイクで去る。
選手 「そっかー。じゃオレ、役者やるっス」
選手、去る。
ピ 「…監督、変えなきゃダメだな」
打 「そうですね。(ピッチングコーチを指して)監督、なんてどうです?」
ピ 「(嬉しい)ま、熱い推薦があれば、私も考えないことはないですが」
打 「(豹変)反対だ!」
ピ 「(怒)じゃあ、言うな!」
ピッチングコーチと打撃コーチ、去る。
打 「(去りながら)お前なんか現役の時、なんにもやってなかったじゃないか!」
(2002.5.12
O.A.)