葦 の 声  04

     
1月16日 2006   
015  老人Aとの対話 
第1話 その6
そこが分かれ目

 ◇◇ 不用意な放し飼い

【老人A】生活のために稼ぐ毎日から解放された人が

悠々自適の人生を始めたとしょうや。

それで、絵なら絵を描き始めたとしよう。あるいは風

景の撮影に凝りだしたとしよう。

【太郎丸】フムフム。

【老人A】絵でも写真でも、描いたり撮ったりするこ

とが好きで楽しいというのが一番やが、少し腕が上が

ってくると展覧会などに出品したりするわな。

仲間から入賞者や表彰される人が出てくる。たまに自

分もそこに入ることもあるだろ。

この辺りから、幸せな人とあまり幸せでない人に分か

れ始めるんだ。

【太郎丸】なんぼやっても一向に上達せん、もちろん

入賞なんてトンと縁のない人。自分もそのお仲間みた

いなものですが・・・。

【老人A】イヤ。そういう意味ではないんだ。上手で

不幸な人もいりゃ下手で幸せな人もいる。

分かれ目は、闘争のシステムを隅っこで上手に寝かせ

ているか否かだ。こいつを不用意に放し飼いにしてる

と、ついつい出しゃばってくるんだ。

生命維持でもなけりゃ、生存競争の場でもないのに、

「勝とう」というココロがいつの間にかせり上がって

くるんだな。そうなると、心底しみじみ感じて楽しむ

ということからは遠くなるんだ。

【太郎丸】なるほど。

【老人A】上位入賞したい、有名になりたいというよ

うなファクターが徐々に幅をきかせてくるんだ。

【太郎丸】あれが特選で俺のが選外というのはオカシ

イなんてね、時には口に出して言う人もいますね。腹

で思っている人はその何倍もいたりして。

【老人A】撮ったり描いたり、そのこと自体にのめり

込んで素朴に楽しむことがすべてである世界からドン

ドン離れて、次元の違う世界に入り込んでしまうんだ

な。

ずうっと前にお前さんが話してくれたろ、目前に広が

る見事な景観に感じ入って、気が付いたら膝頭が小刻

みに震えていたというヤツ。

軸足がな、そういうところから、入賞したいだの有名

になりたいだのの方に移ってしまうと、次第に心に響

かんようになって見えるものも見えんようになって来るんだ。

【太郎丸】えぇ。

【老人A】心底から感じ素直に楽しむこころが、隅っこに追いやられてはあかんわな。

生計を立てるためではなかろ。せっかく良い環境条件に恵まれたのじゃから、それを活かさにゃ勿体ない。

絵を描く、そのことを芯から好きで楽しむ、心に響いてくるシーンに我を忘れてシャッタをきる、それだけで十分だろ。それが一番なんだな。

あとのことは大したこっちゃない、付け足しみたいなもん、ま、絵の額縁みたいなもんだな。


              
(その7に続く)

         (2002年11月12日  晴嵐 太郎丸)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

016  老人Aとの対話 
第1話 その7
武蔵とチャンドラー

 ◇◇ ものは考えよう 

【太郎丸】それにしても、競争があるからこそ進歩向

上があるというのは疑いようがないでしょう。

【老人A】そりゃそうだよ。よいライバルがおれば進

歩向上は速いわな。

【太郎丸】ということは・・・。

【老人A】それはな、こう考えればいい。

勝つために努力して進歩向上、という図式はストレー

トだが原始的で智慧がない。それよりも、目的はあく

までも進歩向上にある、より著しく向上したものが結

果として勝ちに恵まれる、ととらえるほうが健全で賢

明なんだな。

人間の不完全性を予め織り込んでいるから、このほう

が発展性があるし暴走もしないんだ。

【太郎丸】人間が、神様が作り給うた不完全な作品で

ある以上、勝ちに重きをおくといずれ脱線するように

なっている。それを織り込んで考えろと・・・。

【老人A】それに、今、連勝していてもいずれは負け

る。上には上がおって勝ちは続かん。それにひきかえ

進歩向上ははるかに永く続くわな、考えようによって

は生涯続くかも知れん。

ひとつひとつの勝ちは目的ではなく、通過点とか向上

の程度を測るモノサシとして柔らかく捉えるんだな。

そういう柔らかい姿勢の方がより大きい進歩向上をも

たらすんだ。

【太郎丸】なるほど。ものは考えようか。闘争のシス

テムを飼い慣らして逆に利用するわけだ。

【老人A】その通り。ところが、現実はたいてい闘争

のシステムの言いなりだ。「勝つこと」がド真ん中に

座っちまって威張り散らすんだ。

負けたら次は勝ちたい。勝ったら勝ったでもう一つ勝

ちたい。相手が強ければ負けるのが順当なのに負けが

続けば落ち込む。やたら勝ちたがる。どうしたら勝て

るかで頭が一杯になる・・・。ま、原始的で当たり前

のことだから、未熟な若い間はそれでもいいだろう。

ほんとは若くても「進歩向上」が真ん中に坐らんとい

かんのだがな・・・。

【太郎丸】そんな優等生ばかりだったら、神様がまた

退屈されるでしょうに。

【老人A】そうだったな。

だが、人生も後半、残り時間が少なくなるにつれ、更

に課題が湧いて出てくる。

「進歩向上」一本では深みも味わいも今ひとつなんだ

な。主役としては硬直にして一面的に過ぎる。前にも

言うたが、「楽しむ」というやつにその座を譲らにゃ

ならんのだな、ん。

【太郎丸】何のために生きているのか、しっかり押さ

えてないとワケが分からんようになりますね。

【老人A】折にふれ、我と我がこころに語りかけんと

なぁ。

 ◇◇ 金のほうがいい 

【太郎丸】それにしても、現実には昔も今も「勝てば

官軍」でしょ。敗者、ときには準優勝者も「善戦むな

し」の一言で葬られてしまいますからね。

【老人A】だから、金メダル獲得競争が起こる。勝つ

ためには手段を選ばずという選手や国もでてくる。今

のオリンピックはゼニ儲け亡者どもに取り憑かれて、

見世物興行に堕ちてしまっておる。疲労限界に達しと

るよ。

【太郎丸】まぁまぁ。また血圧があがりますよ。

【老人A】優秀なものが表彰され奨励されるというこ

とは、スポーツに限らず分野を問わず、自他共に励み

になり進歩向上につながる。原理としては大正解であ

るわな。

【太郎丸】ということは、優劣を決めることになるか

ら競争になる。競争するからには勝ちたいのが人情で

しょう。ハナシがまた元に戻ってしまったかな。

【老人A】やはり「勝ちたい」が先に立つんだ。その

辺から狂いが出はじめて、しまいにはとんでもない方

向へ行っちまうんだな。

ここは智恵の働かせどころなんだが、原始的に勝ちを

追っかけていって、どうしても脱線暴走する仕掛けに

なっておるんだ。

【太郎丸】救いようのない人間。人間性悪説。またま

た、退屈嫌いの神様のせいにしますか。

【老人A】あんまり神様のセイにすると罰が当たるし

なぁ。そりゃ、人間にはいいところも多い。昔、女子

マラソンで何十位かに入ったアンデルセンとかいう選

手がヨレヨレになりながら完走したのを世界中が応援

したことがあったわな。そんなんとか、銀におわった

有森の「勝てなかったが、ここまで頑張った自分を誉

めてやりたい」みたいなんがどんどん出てきて、それ

に世間ももっともっと反応するといいんじゃが・・。

【太郎丸】最近では、あっけらかんと「金のほうがい

い」と言い放った銀メダルの若い女子選手が受けまし

たね。

【老人A】びっくりしたなぁ。だが、あれは正直で面

白かった。人間はほんまに中途半端な動物なんじゃ。

それをハンデとして考慮すれば、一部の人がそうであ

ってもよかろ。自分自身が人生のある一時期そうであ

ってもよかろ。

しかし、大部分の人がそうであったり、人生の始めか

ら終わりまで、自分自身がそうであってはひとつの地

獄じゃな。

人間の完熟期にはいっても、相変わらずそういうこっ

ちゃ、「五十点どまりの人生」と言うしかなかろ。

 ◇◇ 代打八木の満塁ホーマー

【太郎丸】こういうのはどうでしょうか。

阪神タイガース。開幕の勢いがなくなって負けが先行

しだした頃、代打八木が満塁ホームランで逆転勝ちし

たことがあったでしょう。あの時なんかは女房と二人

でTVの前でワァワァ。ビールがとびっきり旨かった

なぁ、忘れられんですよ。

やっぱり、ひいきのチームがスカッと勝つというのは

理屈抜きにイイもんですよ。

【老人A】あれはワシも見てたよ。思わず立ち上がっ

て「バンザーイ」だ。あくる朝、いそいそとスポーツ

新聞を買いに行ったもんだ。

考えてみれば、桃太郎侍や水戸黄門の颯爽としたシー

ンに大喜びするのと似ておるな。

ひいきのチームが活躍する姿に理屈抜きに大喜びする

のは身体にいいな。人間の不完全性が産み出す悪性ガ

スが抜けるんだろ。

 ◇◇ deserve to live

【太郎丸】ところでマジメなはなし、バリバリの企業

戦士が引退して、闘争システムを隅っこに追いやって

休ませたら、早く呆けるんやないですかね。

【老人A】勝つことだけが生き甲斐という生活だった

ら、そうなっても不思議ではないわな。

【太郎丸】だから、必ずしも気に入っていない仕事で

も続けるんだという理屈もあるんですよ。

【老人A】もともと、人間の精神活動はものすごく幅

のあるもんだ。ひとっことだけが全てではなかろ。

おおざっぱに、人の一生は三つとか四つとかに区切る

ことができるが、それぞれの時期に新しい精神的な発

見があるもんなんだ。その新しい発見に心が躍動する

限り呆けることはないわな。

【太郎丸】新しい発見といえば、あの武蔵は小次郎と

の勝負以降は真剣仕合いを断って、書画や彫り物に没

頭したと伝えられています。事実、優れた作品が残さ

れていますが、その時期の彼に何か精神的な大きな発

見があったと考えられそうですね。

【老人A】そうだな。ワシは「吉川武蔵」しか知らん

が、天下には武蔵以上に名のある剣客がまだまだ多か

ったんだろ、ナントカ一刀齋とか柳生一門とか。急に

弱くなったのでも命が惜しくなったのでもなかろ。

吉川英治はどう描いておったかのう、確かに武蔵の生

き方は興味深い・・・。

ん。ところで、レイモンド・チャンドラーという作家

を知っているかな。その作品の中にこんなセリフがあ

る。「強くなければ生きられない。優しくなければ生

きる価値がない」

【太郎丸】小説そのものは読んでいないのですが、そ

のセリフには聞き覚えがありますよ。たしか、京セラ

の稲盛さんが講演で引用されていましたよ。

【老人A】ほう、稲盛さんも使っていたか。

強くて勝つというのは生きるために必要、つまり生き

る手段なんだ。生きる価値はそれとは別の所にあると

言っている。

人間が生きる価値は「強い」つまり「勝つ」ことにあ

るのではないと言い切っているんだ。

【太郎丸】ウンウン。

【老人A】ちなみに原文はこうだ。

"If I weren't hard, I wouldn't be alive.

If Icouldn't ever be gentle, I wouldn't

deserve to live." (PLAY BACK)

gentle という一語を使っているが、ここは単純に

字ズラだけを追ってはいかんわな。様々な意味が湧い

て出てくるが、それは読む人の深さ次第じゃ。

人の痛みが分かる心、人と哀しみや喜びを分かち合え

る心。美しいものを美しいと感じて感動する心。いま

生きていることを素直に喜んで楽しむ心。

それに、そういうことが出来ることを感謝する心、み

んな deserve to live につながってくるだろな。

【太郎丸】味わい深いですね。

【老人A】必要ではあっても生きる価値とはなり得ん

もんを、いつまでも主役にして大きい顔をさせんこっ

ちゃな。

さって、武蔵はどう悟ったんじゃろなぁ。

             (その8に続く)

    (2002年12月1日 晴嵐 太郎丸)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

017  老人Aとの対話 
第1話  その8
オヌシ、なずなの花が見えるか

 ◇◇ 豊かな世界

【老人A】味わい深いのを、もひとつ。芭蕉の句にこ

んなのがある。

「よく見ればなずな花咲く垣根かな」

【太郎丸】俳句には疎くて・・・。

【老人A】ん。字句にこだわらずに心を読めばいい。

「よく見れば」は観察の程度を量的に拡大するという

のとは違うな。日頃の生活の目とか立場を越えれば、

という心だ。

「日常の生活のために」生きているときに見える世界

と、その枠組みから解放されたときに見えてくる世界

とでは全く違うんだな。

【太郎丸】・・・。

【老人A】なずなはペンペン草とも言うわな。なんの

役にも立たん(と思われている)雑草で誰の注意も引

かん、そんな地味で小さなものに息づいている生命や

美に感じてこころがおどる。そこでの世界の見え方は

日常的なものとは大きく違うんだな。

とるに足らぬなずなの花の美に気づくことによって日

常的な生活とは比べものにならない深まりのある世界

が広がるんだ。

【太郎丸】えぇ。

【老人A】芭蕉はカネには随分困っていたらしい。そ

のことを示す資料を友人の研究家に見せてもらったこ

とがある。金には不自由な貧乏暮らしだったが、実に

豊かな世界に生きた人だ。

【太郎丸】・・・。

【老人A】おおかたの現代の人間には「金はないけど

豊かな世界」は受けんだろ。貧しいとか豊かとかの本

当の意味を分かろうとせんからな。

金があれば豊かで幸せになれると思い込んでいる「金

はあるけど貧しい世界」の住人が実に多いんだな。

【太郎丸】明治生まれの苦労人だった私の母親は、

「お金は少しだけあるのが一番いい。なさ過ぎてもあ

り過ぎても不幸のもと」と言っていました。時々思い

出しますよ。

【老人A】お金と「豊かな世界」との関わりをしっか

り分かっておられたんだな。ん、たしか、チャプリン

some money がいいと言ってた。

 ◇◇ 人生の達人

【老人A】ところで、オヌシぼちぼち「なずなの花」

が見えるようになってきたかな。

【太郎丸】いや〜。まだまだ道遠しですね。ようやく

「垣根」が見えるようになったというところでしょう

か。

【老人A】フムフム。

【太郎丸】ずうっとお話を伺ってきて、「勝負に心を

奪われてはいかん、とりわけ人生の後ろの方では」と

いわれた真意がよっく分かってきました。

【老人A】そいつはよかった。

【太郎丸】昔一緒に仕事をさせてもらった先輩のTさ

んから、こんなメールが送られてきました。

「勝つあては全くないのにテニスが楽しくてやめられ

ない。負けても負けてもコートに出ているんだ。

六五歳を越えて油絵を描きたいと思って始めた。うま

くなると思っているわけではないし、発表の機会も、

誰でもだせる公民館の展示会しかないけれど、キャン

バスに向かって筆を振るうのが無性に楽しい。

それに、どうしてもスキーをやりたくなって用具一式

を揃えたんだ。2、3シーズンだけでも楽しめたらと

思ってね」

【老人A】ウ〜ム。

【太郎丸】ひょっとすると、この先輩は人生の達人か

も知れないと思っているんですよ。

【老人A】お前さん、実に素晴らしい人達に恵まれて

おるよ。その先輩も得難い人物よなぁ。きっと、その

人には「なずなの花」が見えていることだろ。

               (第一話 完)  

    (2002年12月1日 晴嵐 太郎丸)

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018  星目会 

星目会というのは太郎丸が参加してる囲碁の同好会

である。シニァグループ作りを奨励している県の支

援を得て1年前にスタートした。

この会がうまくレールに乗った一番の理由は、世話

役を引き受けてくれた人が、大の囲碁好き、世話好

きの苦労人であることだ。それと、集まってきた人

達が「一緒に楽しもう」という共通意識をもってい

ることだろう。

次に掲げた一文は県の担当者からシニァ仲間作りの

パンフ用に寄稿して欲しいとの依頼を受けてまとめ

たものである。簡潔にするために世話役への感謝や

県の支援についてのヨイショは省いた。

         ◇◇◇◇◇


「分かち合う悠々人生」

 特に功成り名遂げたというわけではないが、ついこ

のあいだまでの三十数年間、企業戦士として飛んだり

跳ねたり頑張り通した。運も不運もひっくるめて自分

なりに充実していたと納得している。

その反面、当然のことだが、企業人としてその行動基

準は経済価値優先にならざるを得なかったし、それに

あまりに忙し過ぎた。


「忙」という字は心が亡ぶとも読める。

長年の企業生活から得られたものは計り知れないし、

こうして生き永らえているのもそのお陰である。

だが見失ったものも少なくなさそうだ。

「星目会」に参加させていただいて一年。毎月二回、

ここに集うシニァは盤上の格闘技を各人各様に楽し

む。時として昼食も忘れてしまうことも、かっての

仕事もかくやと思ってしまう。

なによりも嬉しいことは、悠々人生を仲間と一緒に

分かち合おうという心もちの人が多いように思われ

ることだ。

ここ数十年の忘れもの、そのいくつかを見つけられ

るのではなかろうかと秘かに楽しみにしている此の

頃である。


    (2004年2月12日 晴嵐 太郎丸)

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019  ホンマにやりたいのは何や 

 太郎丸さん

私も引退以来6ヶ月が過ぎました、囲碁、水泳、株

旅行、ジョギング、いろいろやって見ましたが、熱

中出来ることがなかなか見つかりません。

こんな事で人生が終っていくのかなと考える今日こ

の頃です。

太郎丸さんは今何に熱中しているのですか。 Sより  

 

 Sさん

先ごろようやく住居改築工事がおわりましたが、それ

にともなう往復引っ越しやら慣れぬ仮家住まいやらと

ここ数年持病化した腰痛やらで生活のペースがすっか

り崩れてしまいました。

年明けと共に元のいいペースを取り戻したいと思って

おります。


◆ところで、あんたも顔見知りの仕事現役のTさんが

脳診断を受けたところ、萎縮がかなり進行していると

診断されたそうです。「忙しい仕事を続けているのに

...」とぼやいてはりました。

太郎丸の観るところ、仕事であれ、遊びであれ、熱中

して感動とかハッとするような新しい発見がない限り

アカンということのようです。

廃用性退縮つまり「使わないと衰える」というのは人

間の身体、機能にかんしては常識やけど、こと脳に関

しては単に「使わないと衰える」というのやのうて、

「使って感動しないと衰える」と言い替えたほうが当

たっているのと違うやろか。

◆「熱中出来ることがなかなか見つかりません」との

ことやけど、ちょいと長いこと働き過ぎた、それも感

動とか感激とかと縁が薄いところで、ということが背景

にあるのかも知れませんな。

ここは焦らずに「ほんまに自分がやりたいのは何や」

と自分の心に問いかけてみることが大事なことやと思

われます。

それともひとつ、価値観ですな。

「出来るビジネスマンの価値観」が深々と根をおろし

ているさかいに、そのまんまではモードの切り替えと

いうか、違う世界に入って芯から楽しむちゅうのは一

朝一夕にはいかんのやないやろか。

担当業務や業界をかわるという場合は、方策や知識は

かわっても価値観は無関係や。優秀なビジネスマンに

とってはそれほど難しいことやない。

しかし価値観がからむとひと味ふた味違うわなぁ。

◆太郎丸流の新しいモードに入るコツ言いましょうか。

それはいっぺんアホになるこっちゃと思います。

つまり、鎧や兜を脱いで肩書や名刺を捨てるんですな。

ついでに、もう一人の自分を作り出すために別の名前

を作るちゅうのもええ工夫や思います。

遠藤周作が狐狸庵の名で別人格を楽しんでいたのはよく

知られています。


◆はなしを「ホンマにやりたいのは何や」に戻します

が、仕事で忙しい最中そんなことに太郎丸が行き着い

たのは、肺癌であと3年しか生きられんかも知れんと

思い込んだからです。もうかれこれ10年ほどになり

ますな。

死ぬまでの3年ほどの間にホンマに自分がやりたいの

は一体何や、ともかく思いつくままに正直に書き出し

ました。そこが思考の出発点でしたな。



嵐寛の「鞍馬天狗」全部見たい

Jウェインの西部劇全部見たい

「イガグリ君」を読みたい

「砂漠の魔王」を読みたい

小松崎茂を読みたい

山川惣次の「少年王者」を読みたい

井上靖の西域ものを読み返したい

芥川龍之介を読み返したい

司馬遼太郎をもっと読みたい

「論語」を読み返したい

荘子を勉強したい

インド哲学を勉強したい

シルクロードをジープで旅したい

ゴビの砂漠で立ち小便したい

今の仏教はお釈迦さんの目にはどう映るのか知りたい

テニス必殺ストロークをものにしたい

囲碁実力五段で打てるようになりたい

パラレルをものにして横手山をカッコよく滑り降りたい

槍、穂高の冬景色をバッチリ撮りたい

全国のええ露天温泉巡りをしたい

鮎友釣り一夏30日やりたい

宇宙とは何か知りたい

生命とは何か知りたい

心とは何か知りたい

人間は何のために生きているのか知りたい

幸福とは何か知りたい

無とは何か知りたい

空とは何か知りたい

「気」を会得したい

昔の仲間と剣道やりたい

劇団つくって田舎芝居をやりたい

最期の仕事はバチッと決めて辞めたい

時々別の人間になってみたい

時々透明人間になってみたい



......等々あれやこれや百項目ほど。

これら全て「したいこと」であって「すべきこと」

には目もくれなんだですな。

それまでの自分の生き方が「べき」で縛られていた

と感じておったからです。

まっ、「自由人」晴嵐太郎丸の始まりちゅうとこで

すな。

◆そのメモを家の建替えのドサクサで無くしてしも

たので、今思い出しながら書き出してみましたんや。

死ぬまでの3年間と限定せんでも、別に冷静に考え

んでも、能力的に時間的に実行可能なもんはあんま

りありませんな。ひとつハマッてしまうと他がスト

ップしてしまうちゅうことも多いし・・・。

しかし、生き延びられた今、ヨタヨタしながらもそ

ういうラインに沿うて歩いてるように思います。

もし、太郎丸の生活に少しばかりの張りと自信があ

るとしたら、こんなちょっとした自分の心の見直しを

したお陰かも知れませんな。

だらだらと勝手な思いを書きましたんやが、何かの

足しになったら幸いです。  太郎丸 (^^)/~~~


    (2006年1月16日 晴嵐 太郎丸)

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⇒⇒⇒ 「葦の声」目次   
 
  (太郎丸へのメール)