ボクシング世界王者の権威とは?


 さて、こちらはまたも久しぶりの更新です。(苦笑)ここ、一応「スポーツColumn」と名乗ってますので、スポーツ全般を扱えば良い訳だし、実際、今ならタイはバンコク(周辺)でアジア大会真っ最中ですし、話題には事欠かない時期ですね。オリンピックと違って、アジア大会ならではの種目ってのがあって、セパタクローとかカバディとかなんて、日本人にはあまり馴染みがないけど、面白そうな競技がありますしね。例えば、セパタクローなんて、「足のバレーボール」て言われるけど、必要な運動能力から言ったら、バレーボールやサッカーどころじゃないね。スパイクはほぼ全部オーバーヘッドキックになる訳だし、レシーブも、かなりのスピードボールをあっさりと足で受けてしまう訳だし、いやはやあの競技の選手の運動神経は凄いわ。タイで盛んなスポーツらしいけど、さすがはムエタイ(「タイ式ボクシング」と訳されますが、良い意味にも悪い意味にも誤解を招きやすいので、「ムエタイ」とそのままで呼んだ方が良いと思います)の本場、タイだね。ああいう足技をやらせたら超一流ですね。日本で、あんな選手、育つかな?難しいような気がしますね。
 さてさて、そんなこんなの話も良いんですが、アジア大会に触れ出すと、いくら時間があっても足りないので、ここまでにしておいて、今回は、最近の私の素朴な疑問、「プロボクシングの世界チャンピオン(空位も含む)って、今一体何人いるの?」ってのについて、少し考えてみたいと思います。

 そもそも、上記の疑問に関しては、算術的には、本来はじき出すのは簡単で、「プロボクシングの階級数」(但し団体によって多少異なる)と「世界タイトルを認定する団体の数」が正確に分かれば、いとも簡単なのは明らか。子供でも計算できますよね。ところが、現在に於いては、「階級数」も「団体数」も、はっきり分からないんですよ、これが。(苦笑)も少し正確に言うと、「どの程度の団体まで、『世界チャンピオンを公認するに足る』団体とみなして良いのか?」という事になる訳です。要するに、有象無象の怪しい団体が昔に比べ、かなり増えた、という事です。
 その話(最近の怪しい独立系(?)の団体の話)の前に、従来の世界タイトル認定団体の流れを、おさらいしておきましょう。昔(どのくらい昔、と正確には言えませんが、大体30年以上前)なら、プロボクシングの世界で世界チャンピオンを認定してたのは、「世界ボクシング協会(WBA:World Boxing Association)」ただ一つと言って良かった(注*1)のが、1960年代後半あたりから、米欧中心のタイトルマッチ開催やランキング作成に反発して、南米やアフリカなどのいわゆる第三勢力が結成した「世界ボクシング評議会(WBC:World Boxing Council)」が、無視できない勢力(注*2)になってきて、基本的に世界の流れにただ追随するだけなのが好きな日本ボクシングコミッション(以下JBCと記します)は、WBAの他にもWBCに加盟する事にした訳ですね。(そして、今に至るまで、JBCはWBA、WBCの2団体以外には加盟してません。これはこれで正しい見識と言えるが。)

 世界タイトルを統べる団体が一つだけ、またはせいぜい二つだけだった頃は、分かり易かった。(当り前ですな。)それに、その頃(1960年代)は、階級も今ほど細分化されておらず、以下のような感じでした。
フライ級
バンタム級
フェザー級
ライト級(注*3)
ウェルター級(注*3)
ミドル級
ライト・ヘビー級
ヘビー級
 従って、ジュニアの付くクラスを一つ二つ加えても、せいぜい10階級程度。当然世界チャンピオンも10人程度という事になります。世界中で10人しかいない、という事です。これにWBCが加わっても、2倍になるだけだから、20人です。全世界で、「プロボクシングの世界チャンピオン」を名乗れるのは、高々20人しかいなかったのです。(当時は、これでも多いと思いましたが。)余談ですが、昭和40年代前半(1960年代後半)のスポ根漫画、「明日のジョー」の矢吹丈が、東洋チャンピオンに苦闘の末辛勝したり、世界チャンピオンに惜敗(注*4)したりした頃は、かような訳で、希少故にタイトルの価値が今より遙かに高かったのです。だからこそ、漫画の中で、東洋チャンピオン(確か、韓国人だったような...)がとてつもなく強い怪物に描かれ、世界チャンピオン(確か、メキシコ人だったような...)が雲の上の超人に描かれていても、別に違和感はなかったですね、私にとっては。チャンピオンとはそういう凄い連中だというイメージがありましたから。(ま、今でも凄い連中だと思っ てるのは変わりませんが...)

 それが、今では、(団体により多少相違はあるが)大体以下のように細分化されています。
ストロー級
スーパー・ストロー級
フライ級
スーパー・フライ級
バンタム級
スーパー・バンタム級
フェザー級
スーパー・フェザー級
ライト級
スーパー・ライト級
ウェルター級
スーパー・ウェルター級
ミドル級
スーパー・ミドル級
ライト・ヘビー級
ジュニア・ヘビー級(クルーザー級)
ヘビー級
 これで、17階級ですか。まあ、「同じ体重の者同士が戦って優劣を決めるのが公平」という、近代ボクシングの思想からすれば、細分化はやむを得ない、という考えもありますが、それにしてもちと多いのでは?仮に、細分化しすぎ云々は置いておくとしても、もう一つ、最近のボクシング界には、先にも述べたように、チャンピオンを認定する団体が多くなり過ぎた、という重大な問題があります。それについて、以下に少し。
 現在、JBCの見解からすれば、WBA、WBCが伝統的メジャーであり、権威があるとされているのは良いとして、他にも、もう何だかよく分からん団体が、世界には随分あります。ほとんどが米国の団体ですけどね。(苦笑)IBF(国際ボクシング連盟)は、80年代に結成され、それなりに各階級のランキングなんかもちゃんと作ってるから、(たとえJBCが加盟していなくても)まだ良いとしても、WBO(世界ボクシング機構)以降になると、もう、はっきり言って、プロモーターが気に入った選手を売り出す為に、つまりは「世界チャンピオン・ベルト」で箔を付けさせる為に、でっち上げたような、そんな団体ばっかりと断言しても良いんじゃないかな。例えば、WBOなんて、私の記憶では、確か、その当時(1980年代末)のウェルター級、ミドル級のスーパースター、『ヒットマン』トミー・ハーンズに、5階級制覇を達成させる為だけに、急遽作られた団体だったと思います。また、ほぼ同時期に、やはり同じクラスのスーパースター、『超特急』シュガー・レイ・レナードも、5階級制覇を達成してますが、こちらも、ミドル級とライト・ヘビー級の中間に、急遽「スーパー・ミドル級」というクラ スを新設しての、達成ですからね。しかも、こちらは情けないことに、伝統あるWBCが公認してのタイトル新設ですからね。こんな事がまかり通るなら、何でもありですよ。ライト・ヘビーとスーパー・ミドルの間に「ジュニア・ライト・ヘビー」作ったって良いし。(とか言ってたら、この階級、どこかの団体に本当に存在しました。(WBA、WBCにはないようですが。)爆笑です。)

 話が少し(と言うか随分)逸れました。要するに、WBA、WBC、IBF以外(例:WBO、WBFなど)は、未だに各階級のランキングをきちんと作ってない(注*5)ようだし、となると、世界チャンピオン認定団体としては、いささか疑問が残ります。それどころか、「一時、あったような気がしたけど、最近聞かなくなったなぁ?」なんて団体も、最近は少なくありません。(苦笑)まあ、それもこれも、1980年代以降の、露骨に商業主義と(有力選手の奪い合いの)エゴ丸出しの、変なプロモーター連中が次々と団体をでっち上げてるからなんですが。商業主義が全て悪いとは言いませんが、もう少し何とかならんもんかなぁ。既存の世界チャンピオンへの挑戦者決定戦もやらずに、いきなり「新設」団体の世界チャンピオン決定戦じゃねぇ。ひどいのになると、決定戦という形すら取らず、いつの間にか認定されてたりするから。(爆笑)これじゃもう、権威もへったくれもないですよね。私が、自分で、適当な団体名(例:WWBU(世界広域ボクシング・ユニオン(爆笑)))を彫り込んだチャンピオン・ベルトを作って(ブリキか何かで)、「新設の世 界スーパー・バンタム・ライト・フェザー級チャンピオン」なんて名乗っても、許されそうだね。(爆笑)
(注*1)WBAの前身はNBA(National Boxing Assosiation:全米ボクシング協会)で、ヘビー級やミドル級、ライト級と言った、人気階級に関しては、19世紀末頃から既に認定されていたようです。当時は全米チャンピオン=世界チャンピオンと言っても問題ないくらい、米国がボクシングは強かった訳です。
(注*2)WBCが、正式にはいつ結成されたのか、私知りませんが、俗に「世界的に認知されるようになってきた」のが、1960年代以降だという事です。
(注*3)ライト級とウェルター級については、世界的に選手層の厚いクラスという事で、割と早い時期から、ジュニア・ライト級とかジュニア・ウェルター級というのが、存在しました。
(注*4)いや、矢吹丈が負けたかどうかは、不明のまま漫画は終わってるじゃないか、と言われればその通りです。が、試合の流れとしては、ジョーにかなり不利だったはずで。。。【1999.05/07補足】負けたかどうか不明ではの件、読者のかたからご指摘を頂きました。矢吹丈は紛れもなく世界チャンピオンに敗れたそうです。漫画の本編ではそう描かれているそうです。ただ永遠の謎として、「真っ白な灰になった」のが、何を意味するのか(丈の死を意味するのか?)、という部分が残っている、と。そういうご指摘でありました。どうもありがとうございます。
(注*5)と言うか、選手がいないんですね。(爆笑)僅かばかりの選手を引き連れて設立したマガイモノ団体だから、選手数が元々少ないし、そもそもこういう団体では「チャンピオン」以外には意味はないですし。