Microsoft対国家権力


 またしても久しぶりの更新となってしまいました。皆さん、体調を崩したりしていないでしょうか。(ってそりゃ俺や(爆笑))今年の風邪はキツいですからねぇ〜。気を付けましょう。

 さて、いつのまにか世間は師走。早くも、今年最後の月となってしまいました。去年の大晦日に、このホームページを立ち上げましたので、既に一年近くなろうとしている訳です。一年あった割には、遅々として筆が進んでおりませんが、これはまあ、趣味でやってる以上、締め切りがある訳でなし、文章量にノルマがある訳でもなし、従って致し方なし、と勝手に自己弁護しております。(苦笑)でも、これからも、不定期ながら更新は続けていくつもりですので、変わらぬご愛顧のほど、宜しくお願いします。(誰に言ってんの?(笑))
 さて、MSという会社は、ほんと、話題を絶えず作り出してくれると言うか、提供してくれると言うか、Watcherにとっては、情報を整理するだけで一苦労なくらい、次から次と話題の絶えない会社ですねぇ〜。書きたいことは色々あるんですが、時間的にどれもこれもという訳にはいきませんので、今回は、先月(11月)一番の話題だったこれ、「米国で裁判所命令下る」と「日本で排除勧告」の件に絞って、この場で改めて考えてみたいと思います。しばしのお付き合いを。
 順序が逆になりますが、先に、日本で公取委から排除勧告を出された件について、私見を述べてみたいと思います。この件、確認の意味も込めて、多少くどい書き方をしておきますと、「マイクロソフト日本法人が、Microsoft Windows 95/98のライセンスを受けている各ハードウェアベンダーに対し、『人気の高い表計算ソフト』であるMicrosoft Excelに、Microsoft Wordを、セットでバンドルして出荷するよう、強要していた事実が確認された。これは独占禁止法に抵触する疑いが強いので、このようなバンドル強要はしてはいけない。」という排除勧告が、公取委からマイクロソフト日本法人に対して出された、という事です。これに対して、MSKKは、「バンドルを強要した事実はないが、勧告は受け入れる」というコメントを出しましたね。(注*1)

 これ、公取委に言いたいんですが、「何を今更」って感じです。公取委は、この排除勧告を出すなら、2年前に出すべきだった。私の記憶では、3年前、つまりWindows95が出荷されるようになったばかりの頃は、プリインストールモデルとして、「Excel+一太郎」とか、「Excel+OASYS」という組合せが、間違いなくありました。ところが、いつの間にか(それも急に)そういうモデルは消えてしまい、「Excel+Word」というモデルしか存在しなくなりました。これは何を意味するのか?(子供でも、分かりそうなもんです。)当時、まだシェアとしてはWordを遙かに上回っていた一太郎を叩き潰す為に、MSKKが、プリインストールマシンを出している各ハードウェアメーカーに圧力をかけて、一太郎プリインストールモデルを出させないようにした事は、容易に想像がつきます。(注*2)その結果、一太郎は相対的に急激にシェアを落とし、今ではWordに逆転されたと言われています。まあ、バンドル強要を許してしまえば、こうなるのは当たり前で、裏事情を知らない一般ユーザーに してみれば、「買ってきたパソコンに最初から付いてるソフト」を使うのが普通ですからね。よほどの不都合がない限り、改めて同種の別のソフトを、お金出して買いたいとは思わないでしょう。そうやって、Word以外のワープロソフト(一太郎を筆頭に、Word PerfectもLotus WordProもOASYSも)を市場から締め出していった訳です。

 フェアな条件で勝負していたら、あんな使いにくくしかもバグだらけのWordが、一太郎のシェアを奪えたとは、到底私には思えません。(注*3)率直に言って、私はExcelはそれなりに良い製品だと思いますが、同じ会社が作ってるからといって、Wordは全然良い製品とは思いません。あれは本当に洒落にならんバグがある(注*4)し、仮にバグに目をつぶるとしても、操作性も日本人のセンスには決して合わないように思います。(西洋人のセンスに合うのかどうかは、私分かりませんが。)しかも、異様に重いし。そんなロクでもない製品でありながら、PCにバンドルされていれば、ユーザーにとっては感覚的にはタダですから、シェアを伸ばす事など、いともたやすいことです。

 ここまで書いてきて、つい最近も、私たちは同様のやり口を目にしたのを、思い出しますよね。そう、ネットスケープ潰しの為にインターネット・エクスプローラをタダでばらまいていた(一応過去形にしたのは、今ではネットスケープも無料になったから、今更もうIEを排除勧告の対象にしようにもできないし、意味がないからです。)事実を。Wordのバンドル強要と、基本的な考え方は全く同じです。「おいしいマーケットにライバルがいれば、手段を選ばず叩き潰す」というね。あ、それに、ライバル潰しの為だけのソフトの品質は極めて悪いという点も、同じですね(爆笑)。WordもIEも、実に粗悪な品質ですからね。(これはまあ、知ってる人は皆知ってるから、具体的にどこがどう粗悪かは、いちいち書きませんけど。(笑))
 話を公取委のほうに戻すと、今回の排除勧告は、「Microsoftは日本でもその商売のやり方について国家権力からクレームを付けられている」ということを、一般の日本国民に知らしめた、という点では、評価に値しない訳ではないですが、ただ、遅きに失したという感が強いです。先も述べた通り、2年前にこの勧告が出ていれば、私は公取委を見直していたと思いますが、もう既にWordが一太郎のシェアを奪い、ワープロ市場で圧倒的メジャーになってしまった現状では、大した効力を持ちません。せめて、市場での決着が着いてしまう前に、この勧告が出ていれば、意味合いは全然違っていたのですが...
 さて、次は、本命(?)の、米国での裁判所命令に関して、やはり少し私見を述べてみたいと思います。これも、確認の意味を込めて、内容のおさらいをしておきます。「Microsoft社が、SUN microsystems社からライセンスを受けて開発したJava実行環境に関して、SUNが、「Javaの互換性をないがしろにしており、ライセンス違反であるので、『Java互換』を名乗るのを差し止めて欲しい」と訴えていた件に関して、裁判所がSUNの言い分を全面的に支持し、「Microsoft社はそのJava実行環境であるIE4.0xや、Java開発ツールであるVisual J++を、SUNの互換性テストに合格できるように、作り直しなさい。(90日以内に。)そうしなければ、『Java互換』を名乗ることは、許しません。」というもの。Microsoftはこれに対し、命令通り、IE4.0xを作り直すことを決定した(注*5)ようです。

 この命令で注目すべき点は、「Java実行環境を全てJava互換にしないといけない」と言っている点で、これの意味するところは、作り直しはIE4.0xという一ブラウザだけでなく、「ブラウザはOSの機能の一部。OSと一体であって、切り離しは不可能。」とMSがかねて主張していた手前、IE4.0xと一体不可分である(ことになっている)Windows98をも、Java互換に作り直さないといけないという事です。ネットスケープ潰しの為に、「ブラウザはOSの一部」などと、訳の分からん主張をなりふり構わず繰り返してきたことが、ここにきて完全に裏目に出た形になって、私には爆笑もんですが、当のMS、どうするつもりなんですかね。MS幹部の話だと、「90日以内に、100% PureJavaに作り直すのは、難しいことではない」とか、強がってますが、私にはMSがそれほどの技術力のある会社には思えないんですけどね。しかも、金儲けに直結する作業ではなく、「裁判所命令を受け入れた為のやむを得ない後ろ向きの作業」ですから、金の亡者が集うあの会社にしてみれば、全く志気が上がるとも思えず、作り直し作業は難航が予想されるんです(苦笑)が...

 まあ、ただ、この事態に、開発ツール分野では本来ライバルであるInprise(旧社名Borland)が、「ウチの100% PureJavaのノウハウを、提供しても良いよ」と救いの手(?)を差し伸べているので、ここの支援を受ければ、何とかなるかも知れませんね。ただ、当然ビジネスの世界だから、Inpriseもタダで支援する気はないだろうし、ここぞとばかりに、ライセンス料やロイヤリティをふんだくるつもりかも知れません。(爆笑)それでも、これから先のインターネット市場や通信インフラ市場を考えたら、MSとしてもJavaのライセンスを剥奪されるのは、非常に痛いだろう(注*6)から、多少の金を払ってでも、Inpriseの支援を受け入れるんじゃないですかね。ゲイツちゃんは、その辺の計算は瞬時に行える類い稀な能力の持ち主ですから。(笑)
 さてそこで、この裁判所命令が、日本での排除勧告とは重さが違う(法的にも実質的にも)のは、日本での公取委による排除勧告は、もう既に市場での趨勢が決した後である(故に、MSKKにとっては実質的には何も困らない)のに対し、米国での裁判所命令は、まだMSの『非互換Java』が市場で主流になってしまう前に下されたのが大きいし、はっきり製品の作り直しを命令しているので、MSに対して実質的な負担も負わせているのも大きいです。やっぱり、「フェアな競争」を何より重んじる米国だけに、この辺の判断には、素直に敬意を表したいです。と同時に、さしもの「悪ガキ」MSも、今回ばかりは、真面目に製品の改良に取り組まざるを得ないのでは(甘いかな?)ないか、と、一応は期待してるんですけどね。勿論、彼らのやることだから、厳しく監視していないといけないのは当然ですが。
 あと、蛇足とは思いますが、今回の話の最後に、誤解のないように書き加えておきます。今回は、たまたま米国でも日本でも、国家権力側が下した判断が、(多くの一般人にとって)好ましい、正しいことだったと思えるのですが、いつもそうとは限らない、と思っておかねばならないのは、当然の事です。裁判所の判断が絶対正義だとか、公取委の判断が絶対公正だとか、盲信する人は、まさか多くはないとは思いますが、時々そういう人がいるのも事実なので、気を付けましょう。まあ、少なくとも日本では、最近の厚生省やら大蔵省やら防衛庁やらの、度重なる国家権力の腐敗・不祥事を見聞きしているはずだから、「国家権力の権威」なんぞを本気で崇め奉っている人は滅多にいないでしょうけど。(苦笑)
(注*1) 「強要した事実がない」のなら、排除勧告自体に意味がないし、逆に名誉毀損・侮辱に相当すると思うので、MSKKは公取委(の委員たち)を訴えれば良いと思うんですが、何故そうしないんですかねぇ。(爆笑)
(注*2) しかし、強要されたにしても、MSKKの要求を簡単に受け入れてしまうハードメーカーも、いかにも情けないね。特に、NECなんかは、PC-9801の黎明期に、ジャストシステムの一太郎(本当の初期にはJX-WORD太郎)がいわゆるキラー・ソフトとなって、PC-9801が大きく売上げを伸ばす事に貢献したはずなんですが、その当時の義理もすっかり忘れてしまったみたいね。まあ、防衛庁幹部とつるんで、税金をネコババする犯罪企業だから、しょうがないのかな。(←俺もかなりしつこいね(苦笑))
(注*3) と言って、私は、一太郎も特に好きって訳じゃないんですが。(苦笑)まあ、DOS時代の、バージョン4.3あたりまでは、割と好きでした(ATOKの辞書と変換エンジンが優れていた。)が、バージョン5(DOS版)で急に重くなって何か嫌になったし、ましてWindows時代になってからは際限なく重くなっていって、ますます使う気が失せるようになりましたね。それでも、Wordほどひどくなかったのは確かです。
(注*4) 上書き保存した時に、ファイルがなくなってしまうという爆笑もん(当事者には笑い事でない)のバグやら、これでもかと言うほど、色んなバグが報告されてますね。MSKKご自慢(らしい)の最新のWord98では、どれくらいバグが退治されてるのかな?でも、Wordって、BUG Fix版を入手しても、肝心のバグは全然取れてない、新たなバグは入ってる、で、ほんと、使えんのですよ。
(注*5) あの!MSが、今回は割とすんなり命令に従う(ポーズだけかも知れんが)ことにしたのは、この件(Javaの互換性)では、他の裁判みたいに「状況証拠と証言だけ」ではなく、「物証」(他ならぬWindows98とかIE4.0xとかVisual J++とかの製品群)があるから、勝ち目がないと思ったんでしょう。
(注*6) Javaは、パソコン(NC含む)用開発言語としても勿論魅力的です(プラットフォーム非依存という点で)が、それだけでなく、APIのサブセットを切り出せば、少ないメモリでも動作する、(例えば)携帯情報端末用ソフトも作れるなど、その可能性はパソコンという分野を越えて、FAなどの広い分野で応用が利く、将来有望な言語(と言うより規格)なんですね。で、MSは躍起になってJavaを自分の中だけに取り込もうとしてきた訳です。(何となれば、ライセンスを握ってるのはSUNですから、100% PureJavaの評判が良くなると一番儲かるのはSUNだからです。)その中で最大の謀略が、「Windowsでしか動かないJava」を作ってしまう事だったんです。ところが、その謀略が、今回の裁判所命令で、崩れてしまったので、次はどんな手を打ってくるんでしょうね。