Microsoftに於ける「無償」の定義とは?


 つい最近、またもMSがらみで爆笑もののネタを見つけてしまったもんですから、今回は、そのネタを中心に、割と軽めの話を綴ってみたいと思います。まあ、時にはそういうのも良いんじゃないでしょうか。(と一人で納得している私(^^;;)
 さて、最近見つけた爆笑ネタ(但し当事者にとっては笑いごとではない)とは、近頃オフィスなどでぼちぼち見かけるようになってきた、例の「Microsoft IntelliMouse」(以下、インテリマウスと呼びます)に関してです。そう、あの、「ホイールボタン」なるものを、クルクルっと回すと、画面もズルズルっとスクロールしていく(注*1)という、あのマウスのことです。それにまつわる、いかにもMSらしい爆笑ネタをここで書く前に、インテリマウスの歴史(ってもまだ高々2年程度のもんですが)について、ちょっと触れておきましょうか。

 このインテリマウス、出始めた頃は、例によって、MS得意の反則ワザ「Windowsの隠しAPI」の機能を使っていた為に、このマウスのホイールボタンに対応したアプリは、Excel、Word、Access、PowerPoint、InternetExplorerなどといった、いわゆるMSのオフィス・パッケージ系のものしかありませんでした。当然、MS以外の会社、例えば一太郎のジャスト・システムとか、1-2-3やノーツのロータスといったライバル会社は、そういう非公開のAPIの存在は知りません(注*2)から、その時点でのライバル他社のアプリは、当然、ホイールボタンには対応していません。(現在では、勿論、殆どのオフィス・アプリがホイールに対応しています。)つまり、ユーザーの立場からすれば、「マイクロソフト・オフィスのワードやエクセルでは、インテリマウスの便利なホイールが使えるのに、一太郎オフィスやロータス・スーパーオフィスでは、ホイールを回しても、カラカラと空しい音がするだけ(画面は動かん!)じゃん?」ってな事になって、だったらMSオフィスに乗り換えようか、という気になった人(または企業)がいたとしても、何 ら不思議ではありません。こういうやり方で、ユーザーを誘い込んでシェアを伸ばすのが、MSの常套手段なんです。

 MSのだらしないソフト品質によく泣かさている私ですら、このインテリマウス(+インテリポイントというマウスユーティリティ)に関しては、久しぶりのMSのヒット作だと思いましたもん。ただ、これにしても、技術的には久しぶりに「マトモな、使える」ものだったけれど、惜しむらくは、例によって例の如く、「独占的立場を悪用してユーザーの囲い込みを行った」好例になってしまいました(苦笑)。だって、他社に公開していないAPIを使って、自分とこのアプリだけ、他社よりも使いやすくしたんだもんね。こんなの、反則以外の何物でもないはず。まあ、このインテリポイント・ソフトウェアの例に限らず、MSは今でも、例えばデータベース・ソフトでやはり隠しAPIを使って、他社のデータベース・ソフトと性能の差をつけている(注*3)、なんてことは言われています。米国では、「MS対U.S.」という形で、裁判が始まりましたが、司法省や裁判官には、「MSがネットスケープをブラウザ市場から締め出そうと企んだか否か」なんていう、ほんの一例だけでなく、上記のように、「独占的地位を利用して健全な競争を 妨げた」例は、数限りなくある、という事をよくよく覚えておいて欲しいものです。
 さて、ちょっとの前置きのつもりが、ちと長くなってしまいました。では、今回の本題のほうに移りましょうか。

 上記の如く、MSの汚い戦略の一つとして登場してきたMSインテリマウスなんですが、その後、それ用のAPIが公開されたこともあって、他社のアプリも、最低限ホイールボタンによるスクロールには対応してきた上、私が時々使うOS/2すら、今年の春にIBMが「OS/2上でホイールボタンを使える」マウス・ドライバを開発・公開してくれた(注*4)お陰で、私も、「だったらいよいよそういう類のマウスを使ってみるか」って気になって、先月あたりから、そういう「スクロール系の」マウスを使いだした訳です。

 世の中に、スクロール系マウスは、今では多数でてますが、私の場合、「OS/2でも使う」という目的がある為に、OS/2用のスクロール・マウス・ドライバがサポートしているマウスでないと話になりません。今もなおドライバは時々アップデートされているようですが、今のところ、サポートされているのが、「MicrosoftのIntelliMouse系」と「LogitechのMouseMan+系」に限られている【1998/10/28訂正追加:忘れていました、IBMの「スクロールポイント・マウス」ってのもサポートされていました。IBMの開発したドライバが、自社のマウスをサポートしない訳はないですよね。(爆笑)でも、私は、この「スクロールポイント・マウス」、使った事ないです。】ので、まずは自宅のデスクトップ・パソコン用には、LogitechのMouseMan Wheelというマウスを購入して、めでたくWindows95上でもOS/2上でもホイールボタンが使えるようになり、こちらは問題なし。では、もう一つのノート・パソコンのほうはというと、こちらもLogitechのMouseMan Wheelでいけば良いではないか、と言われそうですが、ところがぎっちょんちょん(意味不明)。私は、何故だか、「デスクトップではマウスパッドを敷いてマウスを使い、ノートではトラックボールを使うべし」という確固たる(?)信念をもっておりますので(苦笑)、この場合も、「ホイール付きのトラックボール」を使わねばなりません。Logitechからも、当然世界最大のマウス・メーカー故、「TrackMan Wheel」をはじめ、ホイール付きトラックボールは出ておりますが、残念ながら、これらはOS/2で認識されないので、唯一認識されるトラックボール、「IntelliMouse TrackBall」にせざるを得ません(涙)。そんな訳で、あまり買いたくなかったんですが、やむなくIntelliMouse TrackBallを購入したんです。(実は、IntelliMouseやIntelliMouse TrackBallを購入するのは初めてではないのですが、今回購入したら、以前より添付ソフトウェア(IntelliPoint)のバージョンが上がっていました。)

 で、購入したIntelliMouse TrackBallに添付されていたIntelliPoint Softwareのバージョンが2.2に上がってた(私が以前買った時は2.1だった)のは良いとして、それに関して紙切れ一枚ついていて、それには「IntelliPoint Ver.2.2はWindows95、Windows98、WindowsNT 4.0用に開発されており、(途中略)WindowsNT 3.51でお使いになりたいお客様はIntelliPoint Ver.2.1をお使い頂く必要があります。IntelliPoint Ver.2.1の必要なお客様には、セットアップディスクを無償で提供いたします。但し、送料と事務手数料として一律1,500円を申し受けます。」などとしゃあしゃあと書かれている。おいおい、「1,500円って、無料のうちに入るのか?今時、3.5インチ・ディスク一枚の値段など、60円もあれば充分だろうし、送料も200円はかからんだろうが!?両方足しても、300円ぐらいなら「送料とメディア実費」と言えるだろうが、1,500円て、一体何に対する対価なの?」って感じでしたね。ちなみに、私がこのホームページを開いているプロバイダ(Momoたろうインターネット)の、一月当たりの契約料が、まさに1,500円なんですね。(苦笑)

 何と言いますか、MSの金の亡者ぶりも、ここまでくれば爆笑もんですね。まあ、CEOのゲイツちゃんなんかは、個人資産が500億ドル(日本円で6兆円超)を軽く越えるお方(注*5)だから、1,500円なんて金は木っ端くずほどの値打ちもないんでしょうが、それにしても、一般市民の金銭感覚と、MSの金銭感覚とは、随分かけ離れている(気取って言えば「乖離している」ってやつね)もんですね。1,500円というのは、一般市民にとって、「大した金額ではないが決して無料ではない」というぐらいの感覚でしょう、多分。それを、MSは「1,500円=無料」と言い切ってしまうんだから、やっぱり、さすが、泣く子も爆笑する、天下のMicrosoftですね。笑いのツボを心得ているようです。素晴らしい。

 まあ、この手の話はMSには数多くあって、例えば今年初め頃、オフィス97のバグフィックス用のパッチを、CD-ROMで2,000円で提供して(これ以外の提供手段なし)、「バグフィックスに金を取るとはどういう了見だ」「英語版のパッチはウェブから無償でダウンロードできるのに、何で日本語版パッチは金を取るんだ」とユーザーに文句言われた時、「2,000円はCD-ROMの実費分だ」と言い切って、さらに顰蹙をかったことがありましたね。(ちなみに、CD-ROMの単価など、今時100円もしません。)今回の、IntelliPoint Ver.2.1へのダウングレード(?)に1,500円徴収するのも、そういう感覚の延長線上にあるのは明らかですね。

 私は、WindowsNT 3.51など、どのみち使ってないから、関係ないし、それ故、笑い話で済むんだけど、もし「NT 3.51でインテリマウスを使いたい」と思っている人がいたら、笑い話どころか、激怒もんでしょうね。「何でそうまでして、俺がお前らを儲けさせなきゃならんのだ」ってね。まあ、結局、敵がMSだった場合に限ったことではなく、敵にいいようにカモられない為には、自分自身が賢くなること、それに、社会的には、「巨悪を眠らせない」ようなシステムにすること、そういったことが必要なんでしょう。そういう意味でも、海の向こうで始まったMS対U.S.の裁判、今年中に出ると言われる一審判決の結果も気にはなりますが、裁判の勝者/敗者の如何に拘わらず、この裁判が、MSという、「極めて行儀が悪いが悪知恵だけは発達したクソガキ」のような会社を、少しでも躾ける為の、社会的なきっかけ(勿論日本でも)になってほしいと、私は強く願っています。
(注*1)スクロールボタンには、他にもズーム・イン/ズーム・アウト他、いくつかの機能があるらしい(当然、ドライバ・ソフトウェアであるIntelliPointのバージョンに左右されますが)のですが、私ははっきり言って「画面のスクロール」以外には使ってないので、よく知りません。
(注*2)もう少し正確に言えば、「隠しAPIがあることは分かっていても、それらの詳細な機能を逆エンジニアリングの手法を使って調べるのは余りにも時間がかかり過ぎるので、実際の開発の中では、公開されたAPI以外を使う訳にいかない」ということです。
(注*3)これなんかも、優秀なハッカーが、Microsoft AccessやらMicrosoft SQL Serverやらの中身を、詳細にハッキングした結果「非公開のAPI呼び出しを使っている」と分かったことだそうですから、非常に信憑性は高いです。
(注*4)IBMが公開したこの「OS/2用のスクロール・マウス・ドライバ」、初期のバージョンは随分と不安定だったらしいです。(苦笑)今は、かなり安定しているようです。私も使っていますが、このドライバを入れる前よりもシステムが不安定になった、ってことはないですね。前よりシステムが安定したってこともないですけど(当たり前か(爆笑))
(注*5)つい最近、MSの今期の業績(1998年9月末時点)が発表されましたが、司法省と丁々発止で戦っているにも拘わらず、売上げ、純益とも、過去最高だそうです。ゲイツちゃん、これでさらに個人資産が200億ドルは増えるだろうし、もう笑いが止まらんだろうね。しかし、私が思うに、MSが我が世の春を謳歌してられるのも、今世紀中限りって感じがするけどね。「奢れる者も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。猛き者もついには滅びぬ、ひとえに風の前のちりに同じ」ってね。